相続があった場合の所得税・消費税の取扱いについて

《質問》

 不動産賃貸業を行っている個人甲が令和3年6月末に死亡しました。
 賃貸不動産収入はA物件とB物件から生じ、いずれも消費税の課税対象です。
 相続人は長男と次男だけで、令和4年3月末の遺産分割協議でA物件は長男が、B物件は次男が相続することになりました。
 賃貸収入(課税売上)は、毎年同額で、不動産Aが年額1200万円(100万円/月)、不動産Bが600万円(50万円/月)です。
 令和3年分~5年分までの所得税の申告、消費税の納税義務の判定は具体的にどのようになりますか。
 なお、長男、次男はサラリーマンで課税売上になる収入はありません。

《さくら税研からのアドバイス》

【所得税関係】
⑴ 令和3年1月から6月までの収入
 被相続人甲帰属の収入として準確定申告を行います。

⑵令和3年7月以降の収入
 遺産分割が確定していない間は、相続財産は相続人である長男と次男の共有に属するものとされ、各相続人が法定相続分に応じて申告することになります。
 遺産分割協議が整い分割が確定すれば、それ以後の申告は確定したとおりに申告することになります。
 なお、分割が確定しても、未分割の期間の所得の帰属に影響を及ぼすものではありません。したがって、分割が確定したことを理由とする更正の請求や修正申告をすることはできません(最高裁判決17年9月8日参照)。

相続前と相続後の所得税(不動産分)の申告は次表のとおりとなります。
                              (単位:万円)

元年分 2年分 3年分 4年分 5年分
被相続人 甲 1800 1800 900
相続人 長男 450(注1) 1125(注2) 1200
相続人 次男 450(注1) 675(注2) 600

注1 (100万円+50万円)×6月×1/2=450万円
注2 (100万円+50万円)×3月×1/2=225万円
   長男100万円×9月+225万円=1125万円
   次男50万円×9月+225万円=675万円

【消費税関係】
1 相続があった年(令和3年分)の相続人の納税義務の判定について
⑴ 1月1日~相続のあった日
 相続人自身の基準期間における課税売上高⇒1000万円以下免税、1000万円超課税
 ご質問の場合、長男と次男はいずれもサラリーマンで課税売上高は「0」ですのでこの間は免税となります。なお、被相続人は基準期間(元年分)の課税売上高が1000万円超ですので課税事業者として申告が必要です。

⑵ 相続のあった日の翌日~12月31日
 ①相続人の基準期間における課税売上高
 ②被相続人の基準期間における課税売上高
 ①と②いずれも1000万円以下 免税  ①と②いずれかが1000万円超 課税
 ご質問の場合、「被相続人の基準期間における課税売上高」は、遺産分割が済んでいませんので、法定相続分を乗じた金額となります(消基通1-5-5)。
 ①は「0」です。
②=1800万円×1/2=900万円≦1000万円
 したがって、①と②いずれも1000万円以下ですので相続人は免税となります。

2 相続があった年の翌年分(4年分)、翌々年分(5年分)の相続人の納税義務
次の金額が1000万円以下⇒免税 1000万円超⇒課税
 ○ 事業の全てを相続した場合
 (相続人の基準期間における課税売上高)
       
 (被相続人の基準期間における課税売上高)

 ○ 事業の一部を相続した場合
 (相続人の基準期間における課税売上高)
       
 (相続した事業に係る部分の被相続人の基準期間における課税売上高)
⑴ 令和4年分の納税義務の判定について
 分割のあった年の納税義務の判定は、課税期間の開始する前に判明していなければならないという考え方のもと、4年分は3年12月31日の状況で判定します。
すなわち、
0+1800万円×1/2=900万円≦1000万円
となり長男、次いづれも免税事業者となります。

⑵ 令和5年分の納税義務の判定について
 納税義務の判定時期(令和4年12月31日)には、遺産分割協議が済んでいるので、長男・次男の納税義務(基準期間3年分)は次のアとイの合計額で判定します。
ア 各相続人が事業所ごとに分割して承継した場合、「被相続人の基準期間における課税売上高」は、各相続人が承継した事業場に係る部分の課税売上高となりますので、A不動産を相続した長男が600万円、B不動産を相続した次男が300万円となります。
イ 各相続人の基準期間における課税売上高 450万円

相続人長男の判定 600万円+450万円=1050万円>1000万円(課税事業者)
相続人次男の判定 300万円+450万円=750万円≦1000万円(免税事業者)

《参考資料》

【国税庁H.Pより】

別紙 前年に相続があった場合の共同相続人の消費税の納税義務の判定について

別紙 相続があった年に遺産分割協議が行われた場合における共同相続人の消費税の納税義務の判定について

【消費税基本通達】
(共同相続の場合の納税義務)

1-5-5 法第10条第1項又は第2項《相続があった場合の納税義務の免除の特例》の規定を適用する場合において、2以上の相続人があるときには、相続財産の分割が実行されるまでの間は被相続人の事業を承継する相続人は確定しないことから、各相続人が共同して被相続人の事業を承継したものとして取り扱う。この場合において、各相続人のその課税期間に係る基準期間における課税売上高は、当該被相続人の基準期間における課税売上高に各相続人の民法第900条各号《法定相続分》(同法第901条《代襲相続人の相続分》から第903条《特別受益者の相続分》までの規定の適用を受ける場合には、これらの各条)に規定する相続分に応じた割合を乗じた金額とする。(平17課消1-22により改正)

 

 

従業員の転居に伴う費用等を会社が負担した場合の所得税の取扱い

《質問》

 当社では従業員の転勤に伴い、転居に係る次の諸費用の負担を行うことを検討しています。所得税等課税関係はどのようになりますか。現在従業員は自身が契約したアパートに居住しています。
①転居に伴う引越費用(従業員・家族分)
②転居に伴い子供が転校した場合の入学金の一部補助
③賃貸契約解除に伴う解約違約金
④従業員が契約した新規のアパート契約に伴う礼金等初期費用負担・家賃の半分補助

《さくら税研からのアドバイス》

【所得税関係】
 質問①について
 給与所得者の転任に伴う転居のための旅費等を支給されても、給与所得者は非課税である旨の規定となっています(所法9①四)。非課税となる旅費等の範囲について、必要な運賃、宿泊料、移転料等の支出に充てるもので、その旅行の目的、目的地、行路若しくは期間の長短、宿泊の要否、旅行者の職務内容及び地位等からみて、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられるものされ、次の事項を勘案して判定しています(所基通9-3)。
⑴支給をする使用者等の役員及び使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたもの
⑵ 支給をする使用者等と同業種、同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるもの

 ご質問のように、旅費規程に基づき支給される従業員本人・家族の旅費、引越費用(実費)は非課税と取り扱われます。
 また、家族の旅費については、従業員の赴任後家族が遅れて(3年以内)同居するような場合の転居費用であっても非課税として取り扱われています。

質問②について
 子供が転校することに伴い入学金の一部を負担した場合には、従業員の個人的な費用を負担したものとして非課税とはならず、給与所得として課税されます。

質問③④について
 住宅について評価した賃貸料相当額の1/2以上を徴収していれば課税されない旨の取扱いは、住宅が会社所有のもの、ないしは会社が借り上げ、従業員に貸す場合に適用されるものです。したがって、従業員自身が賃貸借契約を結び、賃貸料の一部を負担するような場合には、非課税規定はなく会社が個人的費用を負担しているにすぎず、給与として課税されるものと考えます。従業員が賃貸借契約を解除するに当たっての解約違約金についても同様に給与課税されるものと考えます。

【消費税関係】
 会社等が旅費等の支給にあたり、仕入税額控除の対象となるか否かは、所基通9-3の例により判定するとされていますので(消基通11-2-1)、所得税法上非課税とされる旅費、引越費用の支給については、課税仕入れの対象となります。給与所得として課税される費用については、課税仕入れの対象とはなりません。

《参考法令》

【所得税法】
(非課税所得)
9条1項
一~三 (略)
四 給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし、若しくは転任に伴う転居のための旅行をした場合又は就職若しくは退職をした者若しくは死亡による退職をした者の遺族がこれらに伴う転居のための旅行をした場合に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるもの
五~  (略)

【所得税基本通達】
〔旅費(第4号関係)〕
(非課税とされる旅費の範囲)
9-3 法第9条第1項第4号の規定により非課税とされる金品は、同号に規定する旅行をした者に対して使用者等からその旅行に必要な運賃、宿泊料、移転料等の支出に充てるものとして支給される金品のうち、その旅行の目的、目的地、行路若しくは期間の長短、宿泊の要否、旅行者の職務内容及び地位等からみて、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品をいうのであるが、当該範囲内の金品に該当するかどうかの判定に当たっては、次に掲げる事項を勘案するものとする。(平23課個2-33、課法9-9、課審4-46改正)
(1) その支給額が、その支給をする使用者等の役員及び使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものであるかどうか。
(2) その支給額が、その支給をする使用者等と同業種、同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるものであるかどうか。

【消費税基本通達】
第2節 課税仕入れの範囲
(出張旅費、宿泊費、日当等)
11-2-1 役員又は使用人(以下「使用人等」という。)が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし、若しくは転任に伴う転居のための旅行をした場合又は就職若しくは退職をした者若しくは死亡による退職をした者の遺族(以下11-2-1において「退職者等」という。)がこれらに伴う転居のための旅行をした場合に、事業者がその使用人等又はその退職者等に支給する出張旅費、宿泊費、日当等のうち、その旅行について通常必要であると認められる部分の金額は、課税仕入れに係る支払対価に該当するものとして取り扱う。
(注)
1 「その旅行について通常必要であると認められる部分の金額」の範囲については、所基通9-3《非課税とされる旅費の範囲》の例により判定する。
2 海外出張のために支給する旅費、宿泊費及び日当等は、原則として課税仕入れに係る支払対価に該当しない。

住宅ローン控除の改正(2022年)

《質問⦆
 2022年(令和4年)に改正のあった住宅ローン控除について説明をお願いします。

《さくら税研からのアドバイス》
Ⅰ 主な改正点は次のとおりです。

令和3(2021)年分以前 令和4(2022)年分以降
区分
借入限度額
消費税の課税の有無による区分
2000万円~5000万円
住宅の環境性能に応じた区分
2000万円~5000万円
控除率 1% 0.7%
控除期間 10年・13年(消費税10%引上時の上乗せ措置) 新築・買取再販13年
既存住宅10年
所得要件 3000万円以下 2000万円以下

Ⅱ 取得区分、居住年ごとの借入限度額、控除期間等は表のとおりです。
 1 新築等した場合

(注)一般の新築住宅のうち、令和5年12月31日までの建築確認を受けたものまたは令和6年6月30日までに建築されたものは、借入限度額を2,000万円として10年間の控除が受けられます。したがって、令和6年1月1日以後に建築確認を受ける新築住宅(登記簿上の建築日付が令和6年6月30日以前のものを除く)、または、建築確認を受けない住宅用に供する家屋で登記簿上の建築日付が令和6年7月1日以後の新築住宅等は、「一定の省エネ基準」を満たさなければ、控除の適用ができないことになります。
 また、特例居住用家屋(床面積が40㎡~50㎡未満の住宅)に該当する場合は、令和5年12月31日までに建築確認を受けたものが対象となります。

 2 買取再販認定住宅等を取得した場合


(注)「買取再販住宅」とは、宅地建物取引業者が特定増改築等をした既存住宅をその業者の取得した日から2年以内に取得した場合の既存住宅(住宅が新築された日から10年を経過したもの)をいいます。
<参考>買取再販住宅のイメージ

 3 中古住宅を取得した場合

(注)①建築年月日が昭和57年1月1日以後の中古住宅 ②取得の日前2年以内に耐震住宅基準に適合した中古住宅について適用があります。なお、一般住宅の築年数要件は廃止されています。

 4 増改築等をした場合

5 要耐震改修住宅を取得した場合

(注)耐震基準に該当しない中古住宅(以下「要耐震改修住宅」といいます。)を取得した場合において、事前に一定の耐震改修を行う旨の申請をした上で、居住の用に供する日(その取得の日から6か月以内の日に限ります。)までにその申請に係る耐震改修を行ったことにより耐震基準に適合することにつき証明がされたものについて控除対象となります。

Ⅲ 令和3年分以前に取得した場合(新コロナ特例該当)
 住宅の取得等で特別特例取得または特例特別特例取得に該当し、令和3年1月1日から令和4年12月31日までの間に自己の居住の用に供した場合、13年間(10年間は控除率が1%)適用対象となり、上記1の改正事項(控除率0.7%)との選択適用となります。

Ⅳ 手続の簡素化
 住宅ローン控除1年目に確定申告書への添付義務とされている「住宅取得資金に係る借入金の年末残高証明書」「工事請負契約書等の写し」については、添付不要とされました。2年目以後の年末調整についても、「住宅取得資金に係る借入金の年末残高証明書」の添付も不要とされました。
 納税者は一定事項を記載した「住宅ローン控除申請書」を金融機関等に提出し、それを受けて金融機関等は住宅借入金の金額等の情報を税務署へ交付します。さらに、年末残高等の情報は税務署から納税者に交付されることになりますので、その情報をもとに確定申告を行います。
 2年目以降は年末残高の情報等が記載された「住宅ローン税額控除証明書」を、税務署が納税者に交付することになりますので、当該書類にて年末調整又は確定申告を行います。
 この改正は、令和5年以後(令和6年1月1日以後に行う確定申告、年末調整)から適用となります。

Ⅴ 個人住民税ににおける住宅ローン控除
 住宅ローン控除額がその年分の所得税額から控除しきれない場合には控除しきれない金額を住民税額から控除することができることになっていますが、その限度額が引き下げられました。
 令和4年分以降の入居者から適用になります。
所得税の課税総所得金額等×7% ➡ 所得税の課税総所得金額等×5%
(最高136,500円)         (最高97,500円)

確定申告に当たって注意すべき事項(2)

 前回に引き続き、今回の解説はⅠ損益通算、Ⅱ純損失の繰越控除、Ⅲ所得控除、Ⅳ税額控除です。

Ⅰ《損益通算・国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例》

【問】
 国外にある不動産の貸付により生じた不動産所得の損失は全て損益通算の対象とならないのですか。
【答】
 損益通算の対象とならない損失は、国外の中古建物で、減価償却費の耐用年数を「簡便法」等により算出しているものに限られ、新築の建物や簡便法等により算出していないものは損益通算の対象となります。

【問】
 国外中古建物を複数貸し付けている場合、不動産所得の金額をどのように計算するのですか。
【答】
 複数の国外中古建物を所有する場合、国外中古建物ごとに区分して不動産所得の金額を算出します。次の場合、損益通算対象外損失は50+30=80となります。

建物A 建物B
収入金額 100 200
減価償却費 50 80
その他経費 120 150
損失額 ▲70 ▲30
損益通算対象外損失額※ 50 30

※ 損益通算対象外損失は、損失額(70)と減価償却費(50)いずれか少ない額がとなります。

Ⅱ《純損失の繰越控除》

【問】
 法人成した年分に損失が発生し、その後の年分は給与所得だけとなりますが、純損失の繰越控除は、純損失が生じた翌年以後も青色申告書を提出する必要があるのですか。
【答】
 繰越控除を適用する年分については、青色申告であることが要件となっていません。純損失が生じた年分の翌年分以後は白色申告者となった場合でも繰越控除ができます(所法70④)。

【問】
 3年前の年分において必要経費の計上漏れがありその結果、事業所得が赤字となった場合、純損失の計上、さらに翌年分への繰越はできますか。
【答】
 確定申告書に純損失の額の記載がない場合でも、更正の請求により3年前の純損失の額が明らかとなり、当該純損失の額を翌年、翌翌年に繰り越す更正の請求をすることができます(所基通70-13)。

Ⅲ-1《所得控除・医療費控除》

【問】
 癌と宣告されたことを保険事故として支給された保険金は、医療費控除に係る補填金として医療費から差し引く必要はありますか。
【答】
 医療費の補填を目的とする保険金に当たらないため、医療費から差し引く必要はありません(所基通73-9)。

【問】
 入院にあたり入院費として30万円病院へ支払いました。医療保険に入っていたため、入院給付金40万円を受け取りました。入院費を超える部分の金額は、他の医療費から差し引く必要がありますか。
【答】
 支払った医療費(入院費相当額)を限度として差し引くことになります。入院費の超過分は他の医療費から差し引く必要はありません。

Ⅲ-2《所得控除・社会保険料控除》

【問】
 妻の年金から差し引かれた介護保険料、後期高齢者医療保険料は、夫の社会保険料控除とすることができますか。
【答】
 妻の年金から差し引かれた保険料は、夫が「支払った場合又は給与から控除される場合」には該当せず、夫から社会保険料控除として控除できません(所法74①)。ただし、後期高齢者医療保険料については、一定の手続きを行えば夫の口座から差し引きこともできます。この場合には夫の社会保険料控除の対象となります。

【問】
 国民年金保険料を2年分前納した場合の社会保険料控除はどのように控除できますか。
【答】
 国民年金を前納した場合、前納した年分で支払額全額を控除するか、前納した各年分に分割して控除するのか選択することができます。ただし、一度選択した方法を、更正の請求で変更することはできません。

Ⅲ-3《所得控除・寄付金控除》

【問】
 公益社団法人等に対する寄附金について、当初確定申告では所得控除としていたものを、税額控除の方が有利になると判明したため更正の請求をすることができますか。
【答】
 寄附金に係る税額控除は当初申告要件となっていることから、当初申告において所得控除の適用を受けていた場合、更正の請求で税額控除に選択替えすることはできません。また、当初申告において寄附金の申告をしていない場合も税額控除を受けることはできません。この場合、更正の請求により所得控除の適用はできます。

Ⅲ-4《所得控除・寡婦控除》

【問】
 夫(90歳)は昨年死亡し、夫が営んでいた不動産貸付業務(年間所得400万円)を妻(88歳・扶養親族なし)に引き継いだ場合、寡婦控除は受けられますか。
【答】
 夫と死別した場合、合計所得金額が500万円以下であれば、扶養親族を有している必要もなく、また、年齢も関係ないことから寡婦控除の適用があります。

Ⅳ-1《税額控除 外国税額控除》

【問】
 当初確定申告において外国税額控除の適用を失念していた場合、更正の請求や修正申告においては、外国税額控除の適用はできませんか。
【答】
 修正申告書、更正の請求書に外国税額控除金額とその計算に係る明細書の添付を行い、外国所得税を課されたことを証する書類を添付すれば適用ができます(所法95⑩)。

【問】
 令和3年分に外国にある土地建物を譲渡しましたが、譲渡所得に係る外国所得税を令和4年になってから納付した場合、どのように外国税額控除を適用するのでしょうか。
【答】
 外国税額控除を適用する年分は、外国所得税を納付することとなる日の属する年分です。問の場合、令和3年分については控除余裕額を計算した外国税額控除の計算明細書を作成したうえで確定申告を行い、令和4年分は控除余裕額の範囲内で外国税額控除を適用することになります(所法95⑵、122⑵)。令和4年分において、申告する所得金額がない場合、外国税額控除額がそのまま還付されることになります(所法95③)。

【問】
 特定口座(源泉徴収有)で取り扱っている国外株式の配当等について、申告することなく外国税額控除を申告することができますか。
【答】
 国外株式の配当等について申告不要を選択した場合、当該配当等に係る外国所得税は外国税額控除の計算の基礎に入れることはできません(措法4の5⑪)。

Ⅳ-2《税額控除 住宅借入金等特別控除》

【問】
 建築後25年を経過した中古住宅を取得した場合、住宅借入金等特別控除の適用はできますか。
【答】
 令和4年以降、昭和57年1月1日以後に建築されたものが中古住宅の対象となることに改正されました。昭和56年12月31日以前に建築された住宅については、地震に対する安全上必要な構造方法に関する技術的基準又はこれに準ずるものに適合する一定中古住宅でない限り対象とはなりません。

【問】
 床面積が40㎡以上50㎡未満の新築住宅を取得した場合、住宅借入金等控除の適用はどうなりますか。
【答】
 入居が令和4年分の場合、特別特例取得に該当する家屋は、控除額1%の住宅借入金等特別控除の適用があります。また、控除率0.7%(13年間一定)の適用もできますので有利な方を選択することになります。
※特別特定取得 住宅取得に係る対価の額に含まれる消費税等が10%の場合をいいます。

【問】
 父が所有する家屋を長男が増改築した場合は、住宅借入金等特別控除の適用はありますか。
【答】
 増改築した場合の住宅借入金等特別控除の適用は、自己の居住用に供する家屋について増改築した場合に限られますので、所有者でない長男は住宅借入金等特別控除の適用はありません。増改築する前に父から長男へ贈与等により取得した場合には、その適用があります(措法41①、措令26①)。

【問】
 住宅取得等資金の贈与税の非課税の適用を受けている場合、住宅借入金等特別控除の適用において注意すべきことはありますか。
【答】
 住宅取得等資金の贈与税の非課税の特例の適用を受けた場合には、住宅借入金等特別控除の適用においてその計算上特例を受けた金額を住宅等の取得価額から減算する必要があります(措法41、70の2②五、70の3③五、措令26⑥)。

【問】
 新たに取得した家屋の居住用に供した年に住宅取得等特別控除を受け、また、これまで住んでいた家屋の譲渡をした場合、「居住用財産を譲渡した場合の3000万円控除(措法35)」等の特例を受けることはできますか。
【答】
 これまで居住していた家屋を譲渡し「居住用財産を譲渡した場合長期譲渡所得等の特例等(措法31の3①、35①、36の2、36の5、37の5)」を受けている場合には、住宅借入金等特別控除の適用を受けることはできません。
令和2年4月1日以後に譲渡した場合適用を受けられない年分
・・・・ 居住用に供した年分、その前2年分・後3年分
令和2年3月31日以前に譲渡した場合適用を受けられない年分
・・・・ 居住用に供した年分、その前後2年分

確定申告に当たって注意すべき事項(1)

 今年も所得税関係の取扱いで注意すべき事項を解説いたします。
 今回は、Ⅰ申告・届出 Ⅱ助成金等を受領した際の課税の有無等 Ⅲ配当所得等 Ⅳ事業所得・不動産所得 Ⅴ退職所得 Ⅵ譲渡所得 Ⅶ所得区分についての設例形式となっています。

Ⅰ《申告・届出》

【問】
 年の中途で死亡した場合、被相続人に所得があった際の申告等はどのようになりますか。
【答】
 次表のようになります。

死亡時期 所得税 住民税
令和4年(3年分確定申告後) ・令和4年分死亡時までの所得について申告要
・相続人は死亡後4月以内準確定申告を要す
令和4年分(住民税では5年度)死亡時までの所得に対しては課税なし※
令和5年(4年分の確定申告前) ・令和4年分の1年間分、5年分死亡時までの所得について申告要
・相続人は死亡後4月以内に各年分(4年分・5年分)について準確定申告を要す
・令和4年分(住民税5年度)の所得については課税(相続人が納税義務)
令和5年分(住民税6年度)死亡時までの所得については課税なし※

※ 住民税の場合、各年度の1月1日現在、死亡している方のその年度の課税はありません。

【問】
 「所得税の納税地の変更に関する届出書」「所得税の納税地の異動に関する届出書」の提出について教えてください。
【答】
 令和5年1月1日以後の所得税の納税地の変更または異動についての届出書は、提出不要とされました。したがって、例えば住所地から事業所を納税地とする場合、届出書の提出は不要となり、確定申告書や申請書に提出時点の納税地を記載すればよいことになります。

Ⅱ《助成金等を受領した際の課税の有無等》

【問】
新型コロナウイルス感染症等の影響に関連して国等から支給される主な助成金等の課税関係について教えてください。
【答】
 国税庁ホームページ「国税における新型コロナウィルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するQ&A」を参考にしてください。

〇非課税対象となるもの

【支給の根拠となる法律が非課税の根拠となるもの】
・新型コロナウイルス感染症対応休業支援金(雇用保険臨時特例法7条)
・新型コロナウイルス感染症対応休業給付金(雇用保険臨時特例法7条)
【新型コロナ税特法が非課税の根拠となるもの】
・特別定額給付金 (新型コロナ税特法4条1項1号)
・住民税非課税世帯等に対する臨時特別給付金(新型コロナ税特法4条1項1号)
・新型コロナウイルス感染症生活困窮者自立支援金(新型コロナ税特法4条1項1号)
・子育て世帯への臨時特別給付金 (新型コロナ税特法4条1項2号)
【所得税法が非課税の根拠となるもの】
〇学資として支給される金品(所得税法9条1項15号)
・学生支援緊急給付金
〇心身又は資産に加えられた損害について支給を受ける相当の見舞金(所得税法9条1項18号)
・低所得のひとり親世帯への臨時特別給付金
・低所得の子育て世帯に対する子育て世帯生活支援特別給付金
・新型コロナウイルス感染症対応従事者への慰労金
・企業主導型ベビーシッター利用者支援事業の特例措置における割引券
・東京都のベビーシッター利用支援事業の特例措置における助成

※ 民間金融機関による実質無利子・無担保融資制度において、信用保証協会に支払う保証料の全額を国が支払うこととなる場合には、個人が支払う保証料はなく、特段の課税関係は生じません。

〇課税対象となるもの

助成金等の種類 収入計上時期
【事業所得等に区分されるもの】
・事業復活支援金・持続化給付金(事業所得者向け)
・東京都の感染拡大防止協力金
・中小法人・個人事業者のための一時支援金・月次支援金
  • 支給決定時
・雇用調整助成金
・小学校休業等対応助成金(支援金)
・家賃支援給付金
・小規模事業者持続化補助金
・農林漁業者への経営継続補助金
・医療機関・薬局等における感染拡大防止等支援事業における補助金
支給決定時又は経費発生時(※1~3)
新型コロナウイルス感染症特別利子補給制度に係る利子補給金 経費発生時(※4)
【一時所得に区分されるもの】
事業復活支援金・持続化給付金(給与所得者向け) 支給決定時
Go Toトラベル事業における給付金 旅行終了時(旅行代金割引相当額)
クーポン使用時(地域共通クーポン相当額)
Go Toイート事業における給付金 ポイント・食事券使用時
Go Toイベント事業における給付金 ポイント・クーポン使用時
【雑所得に区分されるもの】
事業復活支援金・持続化給付金(雑所得者向け) 支給決定時

※1 「経費発生時」とは、助成金等の支給対象となる経費を支出した時に収入計上するものです。

※2 助成金等による補填を前提としてあらかじめ所定の手続を済ませている場合には、その収入計上時期はその経費が発生した日(経費発生時)の属する年分となります(所得税基本通達36・37共-48)。

※3 これらの助成金等の交付目的に適合した固定資産の取得等をした場合(その助成金等の返還を要しないことがその年の12月31日までに確定した場合に限ります。)において、一定の要件を満たすときには、その固定資産の取得等に充てた部分の金額に相当する金額を総収入金額に算入しない(総収入金額不算入)こととされています(所得税法42条)。
(注)いわゆる現金主義(所得税法67条)や措置法差額(租税特別措置法26条)の適用を受ける方なども対象です。

※4 この特別利子補給制度については、事前に最長3年分の利子相当額の交付を受けるものの、交付を受けた時点では収入として確定せず、支払利子の発生に応じてその発生する支払利子相当額の収入が確定し、無利子化される性質のものと考えられることを踏まえた取扱いです。

※5 事業所得等の金額の計算においては、「総収入金額」から「必要経費」を差し引くこととされています。各種給付金等の申請手続に際して発生した費用(行政書士に対する報酬料金など)

Ⅲ《配当所得等》

【問】
 確定申告を要しない上場株等の配当を申告した後に再計算したところ、申告をしない方が有利になることが判明しました。更正の請求ができますか。
【答】
 確定申告を要しない上場株等の配当所得を申告した場合には、その後において配当所得を除外した内容の更正の請求はできません(措通8の5-1)。また、配当所得を申告した方が有利となるのに申告を失念した場合にも、配当所得を含め納税額を減額する旨の更正の請求はできません。

【問】
 確定申告において申告分離課税を選択した上場株式等の配当所得等について、更正の請求で総合課税に選択替えすることができますか。
【答】
 申告分離課税を選択して確定申告をした場合には、その後において更正の請求や修正申告においても申告分離課税により税額計算を行うことになります(措通8の4-1)。なお、上場株式等の配当所得等を申告する場合には、一部だけ総合課税、残りを分離課税というような申告はできず、その全額について総合課税または申告分離課税のいずれかを選択する必要があります(措法8の4②)。

【問】
 複数の源泉徴収口座で上場株式等の利子等又は配当等を受領している場合、その一部の口座だけ選んで申告することができますか。
【答】
 複数の源泉徴収口座内に利子等又は配当等を有する場合には、それぞれの源泉徴収口座ごとに申告の有無の選択をすることができます(措法37の11の6⑨)。ただし、口座内の利子又は配当のいずれか一方のみを申告または申告しないとすることはできません。なお、源泉徴収口座以外で受取る配当等については、1回に支払いを受けるべき配当等ごとに選択することができます(措法8の5④)。

【問】
 源泉徴収口座内で上場株式の配当等と譲渡損失が通算されている場合、これを申告する際には配当等について総合課税を選択することはできますか。
【答】
 源泉徴収口座内で上場株式の配当等と譲渡損失とが損益通算されている場合において、申告する際には譲渡損失と配当等いずれも申告する必要があります(措法37の11の6⑩)。この場合、配当等については、総合課税又は申告分離課税いずれの方法も選択することができます。ただし、利子等については総合課税の選択はできません(措法8の4②)。

【問】
 上場株式の譲渡損失について特定口座と一般口座がある場合、譲渡内通算はできますか。
【答】
 特定口座で生じた譲渡損と一般口座での譲渡益または一般口座での譲渡損と特定口座での譲渡益についていては譲渡内通算ができます。ただし、上場株式の譲渡損について、一般株式の譲渡所得との通算はできません。

【問】
 上場株式等の配当等について、所得税の申告では総合課税で、住民税では申告不要とすることはできますか。
【答】
 上場株式等の配当所得、譲渡所得等について所得税と住民税異なる課税方式を選択できます。具体的には、住民税の納税通知書の送達日までにその旨の内容を記載した住民税の申告書に提出するか、確定申告書2表「住民税・事業税」欄に一定の記載をすることにより異なる課税方式を選択することができます(地法32⑫⑬、313⑫⑬、地法附33の2②⑥)。

Ⅳ《事業所得・不動産所得》

【問】
 一括償却資産の必要経費算入や中小企業者の少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の特例を確定申告で適用しませんでした。更正の請求や修正申告でこれらの特例を適用できますか。
【答】
 ①「一括償却資産の必要経費算入」や②「中小企業者の少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の特例」を適用する場合は、確定申告時①については特例に関する明細書を添付 ②については青色申告決算書に適用する旨の記載をした場合に適用できることになっています。したがって、確定申告時に明細書の添付等がない場合には、更正の請求や修正申告によって新たに必要経費に算入することはできません(所令139②③、措法28の2③、措通28の2-3)

【問】
 居住用建物を取り壊して、業務用建物に建て替えた場合に、当該居住用建物の取壊しによる損失、取壊費用を必要経費に算入することはできますか。
【答】
 非業務用資産の資産損失と取壊費用は、自己の財産の任意の処分と考えられているため、必要経費に算入することはできません(所法45①一)。また、新しく建てられる業務用建物の取得価額にも算入できません。
 業務用資産を含む課税上の取扱いについては次表のとおりとなります。

建物の用途 取壊しの目的 取扱い
資産損失 立退料 取壊費用
業務用資産 建替え後、業務用資産として使用 必要経費
(注2)
必要経費 必要経費
建替え後、非業務用資産として使用 必要経費
(注1)(注2)
必要経費(注1)
非業務用資産 建替え後、業務用資産として使用 家事費 該当なし 家事費
建替え後、非業務用資産として使用

(注1)アパートの賃貸をやめた後、建替工事が速やかに行われることが必要
(注2)事業的規模でない場合には所得金額が上限

【問】
 アパートの建築に際して支払った借入金利子、印紙代、登記費用、不動産取得税について必要経費等の処理はどのようになりますか。
【答】
 アパート建築は請負契約時から業務開始となり、したがって印紙代、登録免許税等登記費用、不動産取得税は所基通37-5によって必要経費算入となります。
 借入金利息については、業務開始後(本件の場合建物建築請負契約後)使用開始前の期間利子は所基通37-27によって原則として必要経費算入となりますが、取得価額算入も認められます。使用開始後の期間利子は同通達によって必要経費算入となります。
① 固定資産取得時の租税公課の取扱い

業務用 非業務用
固定資産税 必要経費
(所基通37-5)
家事費
登録免許税(登記・登録費用含む) 取得費算入
(所基通38-9)
不動産取得税

※ 特許権・鉱業権の登録に係る登録免許税は取得費算入(所基通49-3)
※ 船舶・業務用車両等の登録費用は必要経費又は取得費算入の選択(所基通49-3)

② 借入金利息(抵当権設定費用等含む)の取扱い
(1)業務用

項目 取扱内容
業務開始前の期間利子 取得費算入(所基通37-27)(注)➡所基通38-8
(非業務用資産取得のための借入金利子と同じ扱い)
業務開始後・使用開始前の期間利子 原則 必要経費(所基通37-27)
例外 取得価額算入(所基通37-27)
使用開始後の期間利子 必要経費(所基通37-27)

(2)非業務用

項目 取扱内容
取得から使用開始前までの期間利子 取得費算入(所基通38-8)
使用開始後の期間利子 家事費

【問】
 事業用不動産を相続した場合、不動産に係る固定資産税の必要経費の算入方法はどうなりますか。
【答】
 被相続人・相続人の取扱いは次のとおりとなります。
 ・相続開始前に納税通知があった場合
 次のいずれかを選択して被相続人の必要経費に算入します。
 ① 全額
 ② 納期到来分
 ③ 納付済分
 ②、③を選択した場合、必要経費に算入できなかった分は、当該不動産を相続した相続人の必要経費に算入します。
 ・相続開始後に納税通知があった場合
 相続開始日においては、納付すべきことが具体的に確定していないため、被相続人の必要経費に算入できません。当該不動産を相続した相続人が上記①②③いずれかを選択して必要経費に算入します(所基通37-6)。

【問】
 前年において中古資産を取得し、法定耐用年数を用いて減価償却費の計算をしていましたが、今年度は「中古資産の簡便法」による耐用年数で減価償却費の計算をすることができますか。また、前年の申告を簡便法による耐用年数に変更し減価償却費の再計算を行う旨の更正の請求をすることができますか。
【答】
 中古資産を簡便法を用いた耐用年数で減価償却費の算定ができるのは、その資産の事業用に供した年分において簡便法で算出した場合ですので、事業用に供した年分で簡便法を用いなかったときは、その後の年分において簡便法を用いることはできません。また、事業用に要した年分に遡り、更正の請求や修正申告で簡便法を適用することもできません(耐令3、耐通1-5-1)。

【問】
 家事用資産を業務用に転用した場合の未償却残高の計算は、どのようにするのですか。
【答】
 転用時点の未償却残高は、資産の当初取得価額を基礎として法定耐用年数×1.5の年数により旧定額法に準じて算出します(所法38、所令85,135)。

【問】
 被相続人が旧定率法により償却していた減価償却資産を相続した場合、相続により取得した相続人はどのように減価償却費を算定するのですか。
【答】
 相続により減価償却資産を取得した場合、取得価額、帳簿価額、耐用年数は被相続人から引き継ぎますが、償却方法は引継ぎをしませんので、相続人が器具備品、車両運搬具等について定率法を採用する場合には、新たに償却方法の届出書を提出する必要があります(所法60①、所令126②)。

【問】
 事業所得者や不動産所得者の青色申告承認申請の提出期限はどのようになっていますか。
【答】
 次表のとおりとなります。

事例 提出期限
通常 原則 承認を受けようとする年の3/15
1/16以降業務開始 業務開始から2月以内
相続の場合 被相続人 青色 死亡日1/1~8/31 死亡日から4月以内
〃9/1~10/31 死亡年の12/31
〃11/1~12/31 翌年2/15
被相続人 白色  業務開始から2月以内

(所法144、所基通144-1)

【問】
 青色専従者給与の届出の期限はどのようになっていますか。
【答】
 次表のとおりとなります。

事例 提出期限
通常 原則 算入しようとする年の3/15
1/16以降業務開始又は新規に専従者 業務開始から2月以内
専従者給与の額の変更又は新たに専従者が加わる 遅滞なく

【問】
 「中小企業倒産防止共済事業に係る基金に係る掛金」を支払った場合、必要経費に算入できますか。
【答】
 必要経費に算入するためには、確定申告時に適用に関する明細書(特定の基金に対する負担金等の必要経費算入に関する明細書)を添付する必要があります(措法28)。

【問】
 事業所得が赤字で、不動産所得が事業として行われていない場合の青色申告特別控除額(55万円又は65万円)は適用できますか。

【答】
 不動産所得が事業として行われていなくても、事業所得がある場合には、他の要件を満たすことで、青色申告特別控除55万円(e-Taxの場合65万円)を不動産所得から差し引けます(措法25の2③)。

【問】
 私は、フリーターで従来還付申告書を提出していますが、このような申告の場合申告義務がなくなり3月16日以降の提出もできることから、同日以降提出の場合でも青色申告特別控除は55万円または65万円の適用をしてよいのですか。
【答】
 3月16日以降の申告も可能となりましたが(期限内申告と同様の取扱い)、55万円または65万円の青色申告特別控除を受ける場合には法定申告期限までに確定申告書の提出をする必要があります(措法25の2④、措通25の2-5、25の2-6)。

Ⅴ《退職所得》

【問】
 短期退職手当(令和4年1月1日以降)について説明してください。
【答】
 「短期退職手当等」とは、勤続年数が5年以下である方が支払いを受ける退職手当等をいいます。退職所得控除後の短期退職手当等が300万円を超える場合、退職所得の金額を次のように算出します。
 150万円+〔収入金額-(300万円+退職所得控除額)〕
 退職所得控除後の短期退職手当等が300万円以下の場合はこれまでどおりです。
 (収入金額-退職所得控除額)×1/2

【問】
 退職所得の所得税、住民税における課税の取扱いの違いを説明してください。
【答】
 所得税においては、源泉徴収され通常は確定申告に含める必要はありません。しかし、総所得金額から所得控除が差し引けない時は、退職所得を申告のうえ所得控除額を差し引きすることができます(結果として源泉税の還付が受けられます。)。損益通算や損失の繰越控除もできます。
 また、申告の有無にかかわらず、合計所得金額や総所得金額等には含まれますので扶養親族の判定や住宅ローン控除適用の際には注意を要します。
 一方、住民税では特別徴収され、課税関係が終了します。しかも、合計所得金額や総所得金額等の合計額にも含まれませんので損益通算や損失の繰越控除、所得控除を適用することはできません(地法50の2、328)。

Ⅵ《譲渡所得》
【問】
 平成20年に金地金300グラムを130万円で購入し、令和4年に250万円で売却した場合、その譲渡益の所得区分はどうなりますか、また、所得金額等はいくらですか。
【答】
 金地金の譲渡による所得は総合課税の譲渡所得となります。
 所得金額は、次のとおり算出します。

 収入金額250万円-取得費130万円-特別控除50万円=所得金額70万円

 他に所得がなければ、5年超所有の譲渡所得の課税標準、合計所得金額は
70万円×1/2=35万円となりますので、同一生計配偶者、扶養親族の金額基準に該当します。
 ちなみに、譲渡対価の額が200万円を超える場合、税務署へ支払調書が提出されます。

Ⅶ《所得区分》

【問】
 事業所得と業務に係る雑所得等の区分について説明をしてください。
【答】
 事業所得と業務に係る雑所得の区分については、社会通念で判定する ことが原則ですが、その所得に係る取引を帳簿書類に記録・保存 している場合には、その所得を得る活動について、一般的に、営利性、継続性、企画遂行性を有し、社会通念での判定において、事業所得として取り扱われますが、その所得の収入金額が僅少と認められる場合 や その所得を得る活動に営利性が認められない場合には個別判断することになります。
 令和4年10月7日付けの基本通達の改正のイメージ図は次のとおりです。

収入金額 記帳・帳簿書類の保存あり 記帳・帳簿書類の保存なし
300万円超 概ね事業所得(注) 概ね業務に係る雑所得
300万円以下 業務に係る雑所得
※資産の譲渡は譲渡所得、その他雑所得

(注)次のような場合には、事業と認められるかどうかを個別に判断することとなります。
 ① その所得の収入金額が僅少と認められる場合
 ② その所得を得る活動に営利性が認められない場合

使用人・役員への住宅の貸与

《質問》

 当社は、事業が順調に拡大したこともあり、使用人や役員に対し社宅を貸与することを計画しています。社宅を巡る課税関係一般を教えてください。

《さくら税研からのアドバイス》

【所得税関係】
Q1 使用人・役員に対し住宅を貸し付けた場合の課税上の取扱い

 A 別添参考資料 「21・22」を参照してください。

Q2 賃貸料相当額・徴収賃貸料 課税関係(具体例)

 A 以下の表を参照してください。
⑴ 使用人に対する住宅の貸与

賃貸料相当額Ⓐ 課税を要しない額Ⓑ(Ⓐ×1/2) 徴収額© 課税対象額Ⓓ
(Ⓐ-ⓒ)
 

6,000

 

3,000

0 6,000
2,000 4,000
3,000 0(3,000)
4,000 0(2,000)

⑵ 役員に対する住宅の貸与

区分 借上料Ⓐ 通達算定額Ⓑ (Ⓐ×1/2)とⒷの高い方Ⓒ、但し小規模住宅はⒷ 徴収額Ⓓ 課税対象額Ⓔ
小規模住宅 自社所有 6,000 6,000 0 6,000
3,000 3,000
借上住宅 80,000 15,000 15,000 0 15,000
20,000 0
上記以外(豪華住宅除く) 自社所有 15,000 15,000 0 15,000
7,500 7,500
借上住宅 200,000 30,000 100,000 0 100,000
15,000 85,000

Q3 役員に対し借上社宅(小規模宅地以外)を無償貸与し、専用部分の水道光熱費を含め会社側で負担した場合の給与課税額

 A 次の合計額(①+②)を給与課税します。
 ① ㋐賃貸料相当額を算出
   ㋑(借上料-水道光熱費等個人的費用)の1/2相当額
   ㋐と㋑いずれか高い額
 ② 専用部分水道光熱費等個人的費用

Q4 マンションの借上げに伴い支払家賃の中に次のような費用が含まれていた場合の「賃貸料相当額」の計算
 ①エレベーター保守料
 ②火災報知器保守料
 ③共用部分水道光熱費、火災保険料

 A 個人的費用を負担したものとして取り扱う必要はなく、上記費用を含め「通常の賃貸料の額」を計算してかまいません(国税庁 質疑応答 「役員に貸与したマンションの管理費」)

Q5 役員に対し2軒の社宅(単身赴任用+家族居住用)を貸与する場合の面積判定

 A 判定の基礎となる床面積は、2軒の合計床面積で小規模か否かを判定します(所基通36-41)

Q6 使用人兼務役員に貸し付けた場合の賃貸料相当額の計算

 A 法人税法でいう役員と同様に考え、役員として賃貸料相当額の計算をしなければなりません。

Q7 入居している使用人が月の中途で役員に昇格した場合

 A 役員になった翌月分から役員に対しての貸付として賃貸料の計算を行います。

Q8 使用人が借り上げた家屋について支払っている家賃の1/2相当額を会社負担した場合の課税

 A 賃貸料相当額の1/2相当額を徴収していれば課税をしないという取扱いは、使用者が借り上げた場合適用されるので、使用人が借り上げている場合は同取扱い適用されず、会社の家賃負担額は給与を支給したとして課税されます。

Q9 使用者が役員や使用人所有の住宅を借り上げ、同一人に貸与、会社が役員らに賃借料を支払っている場合

 A 役員等と会社間との契約は、一般的な賃貸借契約とは実質的に相違し、使用人等へ支払う賃借料相当額は住宅手当を支給したものと同視でき給与を支給したとして課税となります。

Q10 無償でも課税されない社宅

 A 別添参考資料 「23」参照してください。

Q11 「固定資産税課税標準額」は課税台帳登載額と現実に賦課された課税標準額いずれなのか。

A 「課税標準額は、1月1日における固定資産税台帳に登録されているものをいう」とされています(所基通36-40逐条解説)。
 しかし、固定資産税の課税標準は、住宅用地に対する課税標準の特例適用により、課税標準となるべき価格が評価額の1/3(小規模住宅用地については、1/6)となります。このような場合、特例適用後で賃貸料相当額の算出をして差支えないと考えます。
 「これは、固定資産税の特例が適用される場合には、現に固定資産税が軽減され社宅コストが低くなること、また、社宅は使用人が自由に住む場所を選択できるものではなく、使用者としても福利厚生面から賃貸料を算出しているため、必ずしも固定資産としての価値にとらわれる必要はないと考えられるからです。」(給与・退職所得の源泉徴収事例集 岡本勝秀著 法令出版)

Q12 固定資産税の課税標準額が改定された場合の算定

 A 改定後の課税標準額に係る固定資産税第1期納期限翌月から改定後の課税標準額を基礎に賃貸料を算定し直しします(所基通36-42⑵)。
 ただし、改定された課税標準額が、現に賃貸料の課税標準額の20%以内の増減に収まっているときには強いて賃貸料の訂正は要しません(所基通36-46)。

Q13 賃貸料のプール計算とは(所基通36-44)

 A 役員と使用人それぞれ別にプール計算を行います。次のような場合、各人ごとの賃貸料相当額に満たない額については課税する必要はありません。

役員名 賃貸料相当額 賃貸料徴収額 課税対象額
役員A 80,000 70,000 (10,000)
役員B 40,000 50,000 (0)
合計 120,000 120,000 課税なし
使用人 賃貸料相当額 賃貸料徴収額 課税対象額
使用人a 20,000 8,000 (12,000)
使用人b 16,000 8,000 (0)
使用人c 12,000 8,000 (0)
合計 48,000 24,000 課税なし

Q14 豪華社宅の具体的な評価方法について

《積算法》
賃貸料相当額(月額)=
(土地・建物の基礎価額 × 期待利回り + 必要経費)× 1/12
平成16年2月26日高松高裁判決(確定)では「上記評価方法が一般的に是認され合理性がある・・・」としています。

【消費税関係】
 仕入税額控除について

 使用料を徴収する社宅は、居住用賃貸建物に該当し、取得に係る課税仕入れの税額については、仕入税額控除の対象とはなりません。他の者から借り上げている社宅の借上料についても仕入税額控除の対象とはなりません。
 従業員等から使用料を徴収せず、無償で貸しつけることが明らかな場合には居住用賃貸建物に該当しないことから、取得費は仕入税額控除の対象となります。個別対応方式による区分は原則として「課税資産とその他資産の譲渡に共通して要するもの」に該当します。
 修繕費、備品購入費用は、自己所有、借上げいずれも仕入れ税額控除の対象となります。個別対応方式の区分は、使用料を徴収する場合は、「その他の資産の譲渡等に要するもの」無償貸し付けの場合は、「共通して要するもの」に該当します。

《別添参考資料》

令和3年版 図解源泉所得税 (大蔵財務協会)より

研修資料 使用人役員への住宅貸与

家事関連費の扱いについて

《前提》

・個人事業主甲は、勤務していた美容室を令和3年1月末に退職して令和4年3月1日付で美容室を開業した。
・店舗までの通勤と備品の買い物等に車両とバイクを使用している。
・店舗は令和3年12月1日より賃借を開始している。
・甲が言うには、休みがなく、ほぼプライベートな利用はないので車両・バイクの関連費用の90%は事業に使用しているとのこと(客観的な記録なし)。
・また開業前に、車両とバイクの車検費用、ガソリン代等を支払っており、借入の申請、物件の調査等に車両を使用したとのこと。

《質問事項》

1. 仮に運行記録等をつけて業務の遂行上明らかな部分を区分できたとしたならば、店舗までの通勤と買い物程度の利用でも、開業日の令和4年3月1日以降であれば、車検費用、自動車保険料、ガソリン代等の費用並びに車両の減価償却費を、走行距離の割合等を使用して事業所得の必要経費としてよいものでしょうか?
2. 仮に必要経費にできたとしても、現在の利用状況からすると、車両とバイクの複数台を利用することは、必ずしも業務の遂行上必要であるとは言えないと考えますので、必要経費の計上ができて、どちらか1台だと考えますが、どうなのでしようか?
3. 仮に必要経費にできたとした場合に、開業前に支出した車検費用、ガソリン代等については、開業のために車両を使用したことはあったとしても、その使用割合を明らかに区分することはできないため、開業費に算入することはできないと考えますが、開業費にする余地はあるのでしょうか?

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国外不動産の譲渡所得に係る外国税額控除

《質問》

 居住者(非永住者以外の居住者)が、カナダに所有する賃貸物件を令和4年中に売却する予定です。カナダで譲渡所得に対する申告・納付は令和5年4月に行います。一方、令和4年分の確定申告を日本で行う際にカナダで申告・納付した外国所得税については外国税額控除の適用はできないのでしょうか。令和5年以降は年以降は賃貸物件を売却するので国外源泉所得は生じません。外国税額控除は受けられず、二重課税となってしまうのでしょうか。

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保険の処理について

《質問》

法人が保険料を全額負担しておりました。
(資産/保険積立金 7,860,000円計上しています。)
代表取締役の死亡により、相続人/妻(役員)が一時金 10,292,488円を受け取りました。

1. 法人(6月決算)の処理ですが、
  雑損失/7,860,000円/保険積立金  別表4加算 7,860,000円
を予定しております。
2. 相続税の申告(R4.1月申告済)では、今回の 10,292,488円は含めておりません。
最近通知書(参考資料)を受け取りました。
相続財産か一時所得かの判断に迷っております。

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非永住者の送金課税

《質問》

 個人A(英国籍)は現在英国に居住していますが、配偶者が日本人のため、今後は日本に居住することを希望し、2022年7月に入国する予定です。入国後は非永住者に該当し、英国での所得に対しても日本へ送金した分について課税対象になると聞いています。 所得の状況・送金額が次の場合、日本での課税はどのようになるのかご教示願います。

2022年(7月以降)・2023年の英国での所得状況

                          所得の内容等 2022年7月~12月所得 2023年
所得
A 不動産貸付(英国にある不動産の貸付・賃貸収入は継続して英国の口座に入金/右金額は経費控除後) 200万円 400万円
B 公的年金(英国の公的年金で継続して英国の口座に入金/右金額は公的年金控除後) 100万円 200万円
C 給与(右金額はいずれも給与収入で、2022年6月までは英国で、その後は日本で勤務。2022年7月以降も全額英国口座に入金・2023年は700万円は日本の口座に入金、残金は英国口座で受取)

500万円(英国口座)

①300万円 (英国口座)
②700万円(日本口座)
D 不動産譲渡(英国にある不動産の譲渡・英国で決済・英国で申告済み/右金額は取得費・譲渡費用控除後) 5000万円

送金状況

ケース1
     2022年(7月以降) 送金 6500万円
     2023年      送金 無し

ケース2
     2022年(7月以降) 送金 無し
     2023年      送金 6500万円

ケース3
     2022年(7月以降) 送金 無し
     2023年      送金 500万円

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