財産評価基本通達14-3「特定路線価」について

 路線価地域内の土地の評価に当たっては、設定されている路線価に基づいて評価するのであるが、路線価の設定されていない道路のみに接している宅地等を評価する場合には、財産評価基本通達14-3「特定路線価」の定めにより評価することとなるため、実務上は、税務署長(広域運営担当の評価専門官)に「特定路線価設定申出書」を提出することになる。

(特定路線価)
14-3 路線価地域内において、相続税、贈与税又は地価税の課税上、路線価の設定されていない道路のみに接している宅地を評価する必要がある場合には、当該道路を路線とみなして当該宅地を評価するための路線価(以下「特定路線価」という。)を納税義務者からの申出等に基づき設定することができる。
  特定路線価は、その特定路線価を設定しようとする道路に接続する路線及び当該道路の付近の路線に設定されている路線価を基に、当該道路の状況、前項に定める地区の別等を考慮して税務署長が評定した1平方メートル当たりの価額とする。(平12課評2-4外追加、平14課評2-2外改正)

(参考)

(路線価)
14 前項の「路線価」は、宅地の価額がおおむね同一と認められる一連の宅地が面している路線(不特定多数の者の通行の用に供されている道路をいう。以下同じ。)ごとに設定する。
  路線価は、路線に接する宅地で次に掲げるすべての事項に該当するものについて、売買実例価額、公示価格(地価公示法(昭和44年法律第49号)第6条⦅標準地の価格等の公示⦆の規定により公示された標準地の価格をいう。以下同じ。)、不動産鑑定士等による鑑 定評価額(不動産鑑定士又は不動産鑑定士補が国税局長の委嘱により鑑定評価した価額をいう。以下同じ。)、精通者意見価格等を基として国税局長がその路線ごとに評定した1平方メートル当たりの価額とする。(昭41直資3-19・昭45直資3-13・昭47直資3-16・平3課評2-4外・平11課評2-2外・平11課評2-12外改正)

(1) その路線のほぼ中央部にあること。
(2) その一連の宅地に共通している地勢にあること。
(3) その路線だけに接していること。
(4) その路線に面している宅地の標準的な間口距離及び奥行距離を有するく形又は正方形のものであること。

(注) (4)の「標準的な間口距離及び奥行距離」には、それぞれ付表1「奥行価格補正率表」に定める補正率(以下「奥行価格補正率」という。)及び付表6「間口狭小補正率表」に定める補正率(以下「間口狭小補正率」という。)がいずれも1.00であり、かつ、付表7「奥行長大補正率表」に定める補正率(以下「奥行長大補正率」という。)の適用を要しないものが該当する。

(相続税法)

(評価の原則)
第二十二条 この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。
(土地評価審議会)
第二十六条の二 国税局ごとに、土地評価審議会を置く。
2 土地評価審議会は、土地の評価に関する事項で国税局長がその意見を求めたものについて調査審議する。
3 土地評価審議会は、委員二十人以内で組織する。
4 委員は、関係行政機関の職員、地方公共団体の職員及び土地の評価について学識経験を有する者のうちから、国税局長が任命する。
5 前二項に定めるもののほか、土地評価審議会の組織及び運営に関し必要な事項は、政令で定める。

《過去の裁決事例の紹介》

1 平成19年11月5日裁決
 (土地の評価方法についての争いであり、裁決全体では長文のため、審判所判断のうち特定路線価の是非部分のみ抜粋した。)

①倍率方式で評価する地域内に所在する市街地農地を評価するに当たり、当該農地が宅 地であるものとした場合における固定資産税評価額が明らかな場合には、当該固定資産税評価額を基として当該農地が宅地であるものとした場合の価額を算定すべきであり、また、 ②控除すべき造成費に給水管等敷設費は含まれないとした事例
                       ▼ 裁決事例集 No.74 – 357頁

(3) 主な争点に対する判断
 本件は、本件各土地の価額を算定するに当たり評価基本通達の適用、解釈等に争いがあるので、事実を関係法令等に照らして本件各土地ごとに審理したところ、次のとおりである。
イ 路線価の設定されていない道路に接面する土地の評価方法について
(イ) 請求人らの本件A土地の評価方法について
 請求人らは、本件A北路線に設定された路線価にX市が固定資産の評定に用いる査定率を乗じて評定した価額を本件A土地西側市道の路線価(以下「請求人路線価」という。)として、本件A土地の価額を算定するべきである旨主張する。
 しかしながら、相続財産の評価に当たり、評価基本通達により評価することは、上記(2)のとおり、同通達の定めに該当する場合には、同通達が画一的に適用されることにより納税者間における実質的な租税負担の公平が図られることなどに合理的理由があると解されるところ、請求人路線価に基づく本件A土地の評価方法は、X市における固定資産税の路線価の取扱いを参考としているものの、請求人路線価は、請求人らからの申出等に基づき所轄税務署長が設定する特定路線価ではないし、また、当該特定路線価に等しいことも明らかではないことから、同通達の定めに基づかない独自の評価方法というほかはなく、採用することができない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
(ロ) 原処分庁が主張する評価方法について
 原処分庁は、本件A北路線に設定された路線価を基に評価基本通達20-3に定める無道路地の評価に準じて本件A土地の価額を算定するべきである旨主張する。
 ところで、評価基本通達に従って評価する場合、本件A土地のように路線価の設定されていない道路のみに接している宅地につき、特定路線価を設定することなく、その道路(本件の場合、本件A土地西側市道)に接続する路線(本件の場合、本件A北路線)の路線価を基に、その接続路線と評価対象地である本件A土地との位置関係等に基づき同通達に定める画地調整を行って評価することも不合理とはいえない。なぜなら、一般に、その土地がその接続路線から遠く離れている場合や地区区分が異なる場合などを除き、その接続路線の影響を受けていると解されるからである。
 これを本件についてみると、本件A土地は、 ①本件A土地と本件A北路線の間に本件A土地北側土地が介在するという本件A北路線と本件A土地の位置関係にあること、 ②路線価の設定されている本件A北路線から奥行距離が16.5 mである本件A土地北側土地に接しており、住宅1軒分奥に入っただけの位置にあること、③ 本件A土地及び本件A土地北側土地は、いずれもUが本件相続により取得していること並びに ④本件A土地西側市道に面していることからすると、本件A土地の評価額を算定するに当たり、本件A北路線に設定された路線価を基に評価基本通達20-3に定める同通達20の不整形地の評価方法を採用することが特に不合理とまではいえず、同通達に則った評価方法ということができる。
 そして、原処分庁は、本件A土地について無道路地に準じて評価すべきである旨主張しているが、別紙3-1の「原処分庁」欄の1の本件A土地の主張額のとおり、通路開設部分に係るしんしゃくを行っておらず、実質的には評価基本通達20に基づき、本件A土地が本件A土地北側土地をかげ地とする不整形地であるとして評価しているものと認められ、結論としては不合理とはいえないものと解される。

2 平成24年11月13日裁決

特定路線価の評定方法に不合理と認められる特段の事情がない限り特定路線価を正面路線価として評価するのが相当とした事例

《ポイント》
 本事例は、路線価の設定されてない道路のみに接する宅地を評価する場合において、当該道路に特定路線価が設定されているときは、当該特定路線価の評定方法に不合理と認められる特段の事情がない限り、当該道路と接続する路線に設定されている路線価を正面路線価として評価する方法よりも、当該特定路線価を正面路線価として評価する方法が合理的であることを初めて明らかにしたものである。
《要旨》
 請求人らは、相続により取得した各土地(本件各土地)は、路線価の設定されていない位置指定道路(本件位置指定道路)のみに接面しており、本件位置指定道路は、路線価の付された市道(本件市道)に接続しているところ、本件各土地の評価に当たっては、本件位置指定道路に設定された特定路線価(本件特定路線価)ではなく、本件市道に付された路線価を正面路線価とすべきである旨主張する。
 しかしながら、特定路線価を設定して評価する趣旨は、評価対象地が路線価の設定されていない道路のみに接している場合であっても、評価対象地の価額をその道路と状況が類似する付近の路線価の付された路線に接する宅地とのバランスを失することのないように評価しようとするものであって、このような趣旨からすると、特定路線価は、路線価の設定されていない道路に接続する路線及び当該道路の付近の路線に設定されている路線価を基にその道路の状況、評価しようとする宅地の所在する地区の別等を考慮して評定されるものであるから、その評定において不合理と認められる特段の事情がない限り、当該特定路線価に基づく評価方法は、路線価の設定されていない道路のみに接続する路線に設定された路線価を基に画地調整を行って評価する方法より合理的であると認められる。本件特定路線価の評定についてみると、不合理とみられる特段の事情は見当たらないから、本件各土地の価額は、本件特定路線価を正面路線価として評価するのが相当である。

3 令和2年8月21日裁決

部名  東京     裁決番号  令020009     裁決年月日  令020821 
裁決結果  棄却  争点番号  400802022 
争点  8財産の評価/2土地及び土地の上に存する権利/2宅地及び宅地の上に存する権利/2正面路線価
事例集登載頁  裁決事例集には登載しておりません
裁決要旨
 ○請求人らは、路線価の設定されていない道路のみに接する土地(本件土地)の評価に当たり、当該道路に接続する路線(本件接続路線)に設定された路線価(本件接続路線価)を基に評価するべきであり、そのように評価することが実情に即さない場合に当該道路に設定された特定路線価を基に評価すべきである旨主張する。しかしながら、路線価の設定されていない道路のみに接する宅地の価額は、当該道路に特定路線価が設定されている場合は、その特定路線価の評定について不合理と認められる特段の事情がない限り、特定路線価を基に評価することが合理的であるところ、原処分庁の申出により当該道路に設定された特定路線価(本件特定路線価)は、その評定において不合理と認められる特段の事情があるとは認められないから、本件土地の価額は、本件特定路線価を基に評価すべきである。(令2.8.21東裁(諸)令2-9)

《補足説明》

1 平成19年11月5日裁決
これは、納税者が特定路線価設定の申し出をせずに、路線価が設定されている路線を基に該当土地を評価したものであり、税務署も同様に評価して争った事案です。したがって、特定路線価の設定はしていません。

2 平成24年11月13日裁決
 これは、納税者が特定路線価の申し出を行い、特定路線価を設定したのですがそれを使わずに、不動産鑑定評価額を基に該当土地を評価したものです。これに対して税務署は、納税者の申し出により設定した特定路線価に基づいて争った事案です。

3 令和2年8月21日裁決
 これは、「1」と同様に、納税者が特定路線価設定の申し出をせずに、路線価が設定されている路線を基に該当土地を評価したものであり、これに対し、税務署は、独自に特定路線価を申し出た上で設定し、この特定路線価に基づいて該当上地を評価して争った事案です。
 この事案は、被相続人の住所地を所轄する税務署が、該当土地を所轄する税務署に対し特定路線価の設定を申し出たという今までにない手法で争った事案です。
 税務署が特定路線価の設定を申し出ることが出来るという根拠は、添付の国税庁が制定した「資産税事務提要(事務手続編)」(公表)の13「特定路線価の評定」の(2)「特定路線価の評定の依頼」になります。

《参考資料》

【資産税事務提要】
(事務手続編)
平成27年6月 国税庁 資産課税課 資産評価企画官

13 特定路線価の評定
 路線価地城内において、路線価の設定されていない道路のみに接している土地等を評価する場合に、当該道路の状況及び当該道路と当該道路に接続する路線の状況の格差、当該土地等の位置等からみて、路線価を基として評価することが不適当と認められるときは納税義務者からの申出等に基づき、特定路線価を評定する。
(1)特定路線価の設定の申出
 納税義務者から、相統税、贈与税又は地価税の申告こ当たり、特定路線価の設定の申出があった場合には、納税義務者に対し「平成_年分 特定路線価設定申出書」(9 -29)及び「別紙 特定路線価により評価する土地等及び特定路線価を設定する道路の所在地、状況等の明細書」(9-30)を交付し、所定の事項を記載の上、評価する土地等の位置、形状等及び特定路線価の設定を申し出る道路の案内図等を添付して、原則として、納税地を所轄する税務署の署長に提出するよう依頼する。
 納税地の所轄税務署長等は、必要に応じて、特定路線価設定申出書等を評価する土地等の所在する地域の特定路線価の評定を行う税務署(以下、「特定路線価評定担当署」という。)に、添付書類とともに転送し、その皆を納税義務者に連絡する。
 なお、特定路線価設定申出書が評価する土地等の所在地を所轄する税務署等の署長に提出された場合には、これを受け付け、添付書類とともに特定路線価評定担当署に転送し、その旨を納税義務者に連絡する。
 また、特定路線価設定申請書が特定路線価評定担当署に提出された場合にも、これを受け付けることに留意する。
(2)特定路線価の設定の依頼
 納税地の所轄税務署長は、相統税、贈与税又は地価税の課税価格等の算定に当たり、特定路線価の設定が必要であると認められる場合には、必要に応じて、当該土地等の特定路線価評定担当署の署長に対して「平成 年分 特定路線価設定依頼・回答書」(9-31)及び「別紙 特定路線価により評価する土地等及び特定路線価を設定する道路の所在地、状況等の明細書」に所定の事項を記載の上、特定路線価の設定を依頼する。
(3)特定路線価設定事績整理簿の整理
 特定路線価の設定の申出又は依頗があった場合には、申出者名又は依頼した納税地の所轄税務署名、その他必要な事項を「特定路線価設定事績整理簿」(9 -32)に記載し整理する。
(注)「特定路線価設定事績整理簿」は、納税地の所轄税務署、特定路線価評定担当署の双方でそれぞれ記載することに留意する。
(4)申出内容の検討
 「平成_年分 特定路線価設定申出書」の提出があった場合には、評価する土地等の位置、評価単位等の点から真に特定路線価を設定する必要があるかどうかを検討し、当該道路に接続する路線の路線価を基に評価することが適当と認められる場合には、特定路線価の設定が不要であることを説明し、その事績を「特定路線価設定事績整理簿亅に記載する。
(5)特定路線価の坪定
 特定路線価の設定が必要な場合には、次のイ又はロの方法により特定路線価を評定し、「特定路線価評定調書兼決議書」(9 -35)により決裁を受ける。
              第9章一49              26.6

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