確定申告に当たっての注意すべき事項⑴

今年も確定申告に当たって注意すべき事項を解説させていただきます。
今回は、令和3年度から影響する主な改正点について説明させていただきます。

1 国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の改正
 ⑴ 国外の中古建物の賃貸による所得について損失が生じた時は、その損失の内、国外中古建物に係る減価償却費㊟相当額の損失は生じなかったものとみなすことになりました。したがって、その損失額は所得内通算や他の所得との損益通算はできません。
㊟ 減価償却費の算出にあたり、耐令3①一または二(中古資産)の規定による耐用年数としているものだけが該当します。
 ⑵ 国外中古建物を譲渡する場合には、生じなかったものとみなす建物の減価償却費相当額の損失は、譲渡所得の計算上取得費に含めて所得金額を算出します。
 なお、上記の改正は、令和3年分から適用されます。令和3年以降取得する国外中古建物だけでなく、令和2年以前から所有していた国外中古建物についても上記特例が適用になります(令和2年度改正、措法41の4の3)。
 ⑶ 申告に際しては、青色申告決算書又は収支内訳書に次の付表《国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例》を添付します。
※[付表のリンク]
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/pdf/0021012-103_02.pdf

2 住宅税制(「令和3年度 所得税の改正のあらまし」より)
 住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除に係る居住の用に供する期間等の特例 (新型コロナ税特法6の2)について、次のとおり、措置が講じられました。
 ① 住宅の新築取得等で特別特例取得に該当するものをした個人が、その特別特例取得をした家屋を令和3年1月1日から令和4年 12月 31 日までの間にその者の居住の用に供 した場合には、住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除、認定住宅の新築等に 係る住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除の特例及び東日本大震災の被災者 等に係る住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除の控除額に係る特例並びにこれらの控除の控除期間の3年間延長の特例を適用することができることとする(新型コ ロナ税特法6の2①)。
 ② 個人又は住宅被災者が、国内において、特例居住用家屋の新築取得等で特例特別特例取得に該当するものをした場合には、上記①の住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除に係る居住の用に供する期間等の特例を適用することができることとする。た だし、その者の13年間の控除期間のうち、その年分の所得税に係る合計所得金額が1,000 万円を超える年については、この②の特例を適用しない(新型コロナ税特法6の2④~ ⑦)。
(注)1 上記①の「特別特例取得」及び上記②の「特例特別特例取得」とは、それぞれその取得に係る対価の額又は費用の額に含まれる消費税額等相当額が、その取得に係る課税資産の譲渡等につき現行の消費税率により課されるべき消費税額及び当該 消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額の合計額に相当する額であ る場合における住宅の新築取得等又は特例居住用家屋の新築取得等のうち、その契 約が次の期間内に締結されているものをいう(新型コロナ税特法6の2②⑩、新型 コロナ税特令4の2①⑭)。
 イ 家屋の新築の場合…令和2年 10月1日から令和3年9月 30 日まで
 ロ 家屋の取得又は家屋の増改築等の場合…令和2年 12月1日から令和3年 11 月 30 日まで
(注)2 上記②の「特例居住用家屋」とは、居住の用に供する次の家屋をいう(新型コロ ナ税特法6の2④、新型コロナ税特令4の2②)。
イ 一棟の家屋で床面積が 40 ㎡以上 50 ㎡未満であるもの
ロ 一棟の家屋で、その構造上区分された数個の部分を独立して住居その他の用途 に供することができるものにつきその各部分を区分所有する場合には、その者の 区分所有する部分の床面積が 40 ㎡以上 50 ㎡未満であるもの
 ③ 要耐震改修住宅を耐震改修した場合の特例についても上記①及び②の特例が適用で きる措置を講じるほか、所要の改正を行う(新型コロナ税特法6の2⑥⑧等)。
※詳細は、下記リンクを参考にしてください。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1213.htm

3 還付申告義務見直し
 所得税の確定所得申告(所法 120)等について、その計算した所得税の額の合計額が配当控除の額を超える場合であっても、控除しきれなかった外国税額控除の額があるとき、控除しきれなかった源泉徴収税額があるとき、又は控除しきれなかった予納税額がある ときは、その申告書の提出を要しないこととするほか、源泉徴収税額等及び予納税額の還付に係る還付加算金の計算期間等について、所要の整備が行われました(所法 120、122、123、125、127、159、160、166 等)
 この改正は、令和4年1月1日以後に提出期限が到来する所得税の確定申告書について適用されます(改正法附則7)。
○ケース1
給与所得 500万円(年調済み)医療費控除30万円 申告納税額▲2万円
【改正前・還付申告(確定申告義務なし)➡ 改正後・変わらず】
○ケース2
給与所得 200万円 雑所得(公的年金)150万円
所得控除250万円 源泉徴収税額10万円 申告納税額▲5万円
【改正前・確定申告義務あり➡ 改正後・還付申告(確定申告義務なし)】
○ケース3
事業所得(青色控除65万円) 300万円 所得控除 200万円 源泉徴収税額 40万円
申告納税額 ▲35万円
【改正前・確定申告義務あり➡ 改正後・還付申告(確定申告義務なし】
(注) 青色申告特別控除(55万円又は65万円)の適用を受けるためには、確定申告期限までに申告書の提出をする必要があります(措置法通達25の2-6)。
 また、確定申告義務がなくなった方でも一定の基準を超えた場合、財産債務調書の提出を要します(国外送金調書法6の2)。
※詳細は、下記リンクを参考にしてください。
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hotei/zaisan_saimu/pdf/zaisan_chirashi.pdf

4 中小事業者が機械等を取得した場合の特別償却又は所得税額の特別控除(「令和3年度 所得税の改正のあらまし」より)
 その対象資産から匿名組合契約その他これに類する一定の契約の目的である事業の用に供するものを除外した上、その適用期限が2年延長されました(措法 10 の3①)。
 この改正は、令和3年4月1日以後に取得等をする対象資産について適用されます(改正法附則 27)。

5 適用期限の延長措置(「令和3年度 所得税の改正のあらまし」より)
次の措置について、その適用期限が2年延長されました。
① 地域経済牽引事業の促進区域内において特定事業用機械等を取得した場合の特別償 却又は所得税額の特別控除(措法 10 の4①)。
② 特定中小事業者が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は所得税額の 特別控除(措法 10 の5の3①)。
③ 医療用機器等の特別償却(措法 12 の2①~③)。
④ 事業再編計画の認定を受けた場合の事業再編促進機械等の割増償却(措法 13 の2①)。
⑤ 特定都市再生建築物の割増償却(措法 14①)

6 税務関係書類における押印義務(「令和3年度 所得税の改正のあらまし」より)
 提出者等の押印をしなければならないこととされている税務関係書類において、原則として、押印を要しないこととするほか、所要の措置が講じられました(通則法 124②等)。

7 確定申告からふるさと納税(寄附金控除)の申告手続が簡素化
 制度の概要
 寄附金控除の適用を受けるためには、確定申告書に特定寄附金の受領者が発行する寄附ごとの「寄附金の受領書」の添付が必要とされていますが、令和3年分の確定申告から、特定寄附金の受領者が地方団体であるとき(ふるさと納税であるとき)は、寄附ごとの「寄附金の受領書」に代えて、特定事業者が発行する年間寄附額を記載した「寄附金控除に関する証明書」を添付することができることとされました。
 寄附金控除に関する証明書の提供を受けた寄附者は、次の方法により確定申告を行うことができます。
・ 特定事業者のポータルサイトからダウンロードした証明書データをe-Taxを活用して確定申告書に添付して送信する方法
※ 確定申告書等作成コーナーでは、証明書データを自動反映させて控除額の計算を行うことができます(個々のデータを入力する必要がないので便利です。)。
・ 特定事業者のポータルサイトからダウンロードした証明書データを国税庁が提供するQRコード付証明書等作成システム(注)で読み込み、これをプリントアウトした書類を確定申告書に添付して申告する方法
(注) QRコード付証明書等作成システムについては、令和3年10月頃、更新し、「寄附金控除に関する証明書」の出力に対応する予定です。
・ 郵送で交付を受けた証明書を確定申告書に添付して申告する方法

8 利子所得の分離課税等(「令和3年度 所得税の改正のあらまし」より)
 同族会社が発行した社債の利子等で、その 同族会社の判定の基礎となる株主である法人と特殊の関係のある個人及びその親族等が 支払を受けるものを、総合課税の対象とすることとされました(措法3①四、措令1の4 ⑤等)。
 (注)
 1 上記の「法人と特殊の関係のある個人」とは、その法人との間に発行済株式等 の 50%超の保有関係等がある個人をいいます(措令1の4③④等)。
 2 一般株式等に係る譲渡所得等の課税の特例(措法 37 の 10)における償還金についても同様の改正が行われています。
 《適用関係》この改正は、令和3年4月1日以後に支払を受けるべき社債の利子等について 適用されます(改正法附則16等)。

9 経営セーフティ共済の必要経費に関する明細書
 個人事業主が、独立行政法人中小企業基盤整備機構が行う中小企業倒産防止共済法の規定による中小企業倒産防止共済事業に係る基金に充てるための同法第二条第二項に規定する共済契約に係る掛金(通称「経営セーフティ共済掛金』といいます。)を支出した場合には、『特定の基金に対する負担金等の必要経費算入に関する明細書(下記サイトを参照してください。)』に必要事項を記入し、確定申告書に添付する必要がありますのでご注意ください。。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/yoshiki/02/pdf/061.pdf

10 その他
 次の事項は、改正ではありませんが、家事関連費の按分の際に影響がでることも考えられますので紹介させていただきます。(「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」より)
 【問6】 通信費に係る業務使用部分の計算方法
従業員が負担した通信費について、在宅勤務に要した部分を支給する場合、業務のため に使用した部分はどのように計算すればよいですか。
 【答】
〇 電話料金
イ 通話料
 通話料(下記ロの基本使用料を除きます。)については、通話明細書等により業務の ための通話に係る料金が確認できますので、その金額を企業が従業員に支給する場合 には、従業員に対する給与として課税する必要はありません。 なお、業務のための通話を頻繁に行う業務に従事する従業員については、通話明細書等による業務のための通話に係る料金に代えて、例えば、次の【算式】により算出 したものを、業務のための通話に係る料金として差し支えありません。
(注)業務のための通話を頻繁に行う業務とは、例えば、営業担当や出張サポート担 当など、顧客や取引先等と電話で連絡を取り合う機会が多い業務として企業が認めるものをいいます。
ロ 基本使用料
 基本使用料などについては、業務のために使用した部分を合理的に計算する必要があります。
例えば、次の【算式】により算出したものを企業が従業員に支給する場合には、従業員に対する給与として課税しなくて差し支えありません。
〇 インターネット接続に係る通信料 基本使用料やデータ通信料などについては、業務のために使用した部分を合理的に計算する必要があります。 例えば、次の【算式】により算出したものを企業が従業員に支給する場合には、従業員に対する給与として課税しなくて差し支えありません。
(注)従業員本人が所有するスマートフォンの本体の購入代金や業務のために使用したと認められないオプション代等(本体の補償料や音楽・動画などのサブスクリプションの利用料等)を企業が負担した場合には、その負担した金額は従業員に対する給与と して課税する必要があります。

【算式】
業務のために     従業員が負担した  その従業員の1か月の   ※
使用した基本  = 1か月の基本使用料 ×  在宅勤務日数  × 1/2
使用料や通信料等   や通信料等       該当月の日数

※ 上記算式の「1/2」については、1日の内、睡眠時間を除いた時間の全てにおいて 均等に基本使用料や通信料が生じていると仮定し、次のとおり算出しています。
 ① 1日:24 時間
 ② 平均睡眠時間:8時間 (「平成 28 年社会生活基本調査」(総務省統計局)で示されている7時間 40 分を切上げ)
 ③ 法定労働時間:8時間
 ④ 1日の内、睡眠時間を除いた時間に占める労働時間の割合 :
  ③÷(①-②)= 8時間/(24 時間-8時間)= 1/2
【例】 従業員が9月に在宅勤務を 20 日間行い、1か月に基本使用料や通信料1万円を負担し た場合の業務のために使用した部分の計算方法。
      
10,000 円 ×  20 日(在宅勤務日数) × 1/2= 3,334 円(1円未満切上)
        30 日(9月の日数)
(注)上記の算式によらずに、より精緻な方法で業務のために使用した基本使用料や通信 料の金額を算出し、その金額を企業が従業員に支給している場合についても、従業員 に対する給与として課税しなくて差し支えありません。

最近資産税の相談が多く寄せられた事案についての資料を掲載します

【1】 換価遺言が行われた場合の課税関係について

国税庁ホームページより
換価遺言が行われた場合の課税関係について

【2】 事業用建物等・居住用建物の建築中又は買換え中に相続が開始した場合の小規模宅地等の適用

週刊税務通信(令和3年11月1日)より

解説相続・贈与   税理士 香取 稔氏
略歴  国税庁資産課税課課長補佐,世田谷税務署副署長,東京地方裁判所裁判所調査官,東京国税局課税第一部資産評価官,同局課税第一部機動課長,同局課税第一部資料調査第二課長,国税不服審判所総括国税審判官,高松国税不服審判所長を経て,現在税理士。

事業用建物等・居住用建物の建築中又は買換え中に相続が開始した場合の小規模宅地等の適用

《問》
 クライアントである高齢の甲は一人で自宅(A物件)に居住していますが、今後の生活資金等を確保するため、①A物件を取り壊し、新たに賃貸併用住宅(B物件)を建築する(①案)か、あるいは、②A物件を売却し、他の場所に自宅(C物件)と賃貸用住宅(D物件・新築で賃借人はいない。)を取得する(②案)ことを計画しています。
 甲が、①案においてA物件を取り壊した後(B物件の建築工事着手前)、あるいは、②案においてA物件の売買契約中に死亡した場合において、
(1)①案においてA物件の敷地について小規模宅地等の特例の適用がありますか。
(2)②案においてA物件の敷地について小規模宅地等の特例の適用がありますか。
(3)②案においてC物件及びD物件の敷地について小規模宅地等の特例の適用がありますか。
(4)①案のB物件(賃貸用部分)又は②案のD物件について貸家及び貸家建付地として減額評価することができますか。
(5)②案において甲の相続人がA物件の売買契約を相続税の申告期限までに解除した場合には、相続財産はA物件(土地・建物)として申告することができますか。

《答》
(1)①案においてA物件の敷地について小規模宅地等の特例の適用の可否
甲の相続開始の時において、同人が居住していたA物件は取り壊され、B物件の建築工事に着手されていないことから、その敷地について小規模宅地等の特例の適用はありません。

(2)②案においてA物件の敷地について小規模宅地等の特例の適用の可否
売買契約中に係るA物件については、相続財産は債権(売買残代金請求権)ですから、同物件の敷地について小規模宅地等の特例の適用はありません。

(3)②案においてC物件及びD物件の敷地について小規模宅地等の特例の適用の可否
C物件の敷地については、相続財産を同物件の土地建物とする申告をした場合には、同土地について一定の要件を満たす限り小規模宅地等の特例の適用があります。
一方、D物件の敷地については、甲が新たに貸付事業を開始するために取得するものですから、同敷地について小規模宅地等の特例の適用がありません。

(4)①案のB物件(賃貸用部分)又は②案のD物件について貸家及び貸家建付地として減額評価の可否
B物件(賃貸用部分)又はD物件は、相続開始日において賃貸借契約は締結されておらず、評価上の減額要素となる賃借人の各物件の建物に対する使用収益権及び同建物の敷地に対する敷地利用権は存在しませんから、それぞれの建物及び敷地は自用のものとして評価するのが相当と考えます。

(5)②案において甲の相続人がA物件の売買契約を相続税の申告期限までに解除した場合には、相続財産はA物件(土地・建物)として申告することの可否
ご質問のケースにおいて売買契約が如何なる理由により解除されるのか明らかではありませんが、その解除理由の次第によっては相続財産をA物件(土地・建物)として申告することができると解されます。

《解説》

1 事業用建物等・居住用建物の建築中等に相続が開始した場合の小規模宅地等の特例の適用に関する措置法通達の定めなど

(1)措置法通達の定め

①  措通69の4-5 《事業用建物等の建築中等に相続が開始した場合》においては、被相続人等の事業の用に供されている建物等の移転又は建替えのため当該建物等を取り壊し、又は譲渡し、 これらの建物等に代わるべき建物等 (被相続人又は被相続人の親族の所有に係るものに限る。)の建築中に、又は当該建物等の取得後被相続人等が事業の用に供する前に被相続人について相続が開始した場合で、当該相続開始直前において当該被相続人等の当該建物等に係る事業の準備行為の状況からみて当該建物等を速やかにその事業の用に供することが確実であったと認められるときは、当該建物等の敷地の用に供されていた宅地等は、事業用宅地等に該当するものとして取り扱うこととされています。

②  措通69の4-8 《居住用建物の建築中等に相続が開始した場合》においては、被相続人等の居住の用に供されると認められる建物(被相続人又は被相続人の親族の所有に係るものに限る。)の建築中に、又は当該建物の取得後被相続人等が居住の用に供する前に被相続人について相続が開始した場合には、当該建物の敷地の用に供されていた宅地等が居住用宅地等に当たるかどうか及び居住用宅地等の部分については、69の4-5に準じて取り扱うこととされています。ただし、この取扱いは、相続の開始の直前において被相続人等が 自己の居住の用に供している建物 (被相続人等の居住の用に供されると認められる建物の建築中等に限り一時的に居住の用に供していたにすぎないと認められる建物を除く。) を所有していなかった場合 に限り適用があるとされています。

(2)留意点

①  措通69の4-5 ・ 69の4-8 の取扱いを事業用建物等又は居住用建物の建築中に適用する場合には、相続開始時において事業用建物等又は居住用建物の敷地としての土地の使用が具体化ないし現実化していることが必要であり、そのためには 少なくともその土地上において現実に事業用建物等又は居住用建物の建築工事が着手されていることが必要 とされており、被相続人等の事業用建物等又は居住用建物の建築請負契約が締結されているだけでは足りないと解されています。

[参考:東京高裁平成9年2月26日判決]

○ 相続税法及び租税特別措置法等租税法規の適用は、租税法律主義の原則及び課税の公平の原則並びに迅速な課税処理という徴税技術上の観点から、相続開始の前後の事情を問わず、相続開始時の現況に基づき一義的な統一的、画一的な基準によって判断されるべきところ、本件のようなケースにまで本件特例を適用することになれば、結局相続開始時においては更地であったにもかかわらず、相続開始後に建築工事に着手した場合にまで本件特例の適用が拡張されることになり、仮に当該土地上に居住用建物を建築する予定があったとしても(そして、その着工予定時期等が相続開始時と近接していて右建築計画がいかに具体的で確実なものであったにしても)、相続税法が相続税の課税価格を相続開始時の現況により算定するとしている趣旨に反することになるのであって、前記のような一義的で、かつ統一的、画一的な租税法規の適用の必要の観点からしても、そのような特例の適用の拡張は相当でなく、控訴人らが小規模宅地等の特例の適用を受けられないこともやむを得ない。

②  措通69の4-5 の取扱いは、「被相続人等の事業の用に供されている建物等の移転又は建替えのため当該建物等を取り壊し、又は譲渡し、これらの建物等に代わるべき建物等(被相続人又は被相続人の親族の所有に係るものに限る。)の建築中に、又は当該建物等の取得後被相続人等が事業の用に供する前に被相続人について相続が開始した場合」に適用されることから、新規に事業を開始しようとするケースについては、その適用がありません。
 一方、 措通69の4-8 の取扱いは、 措通69の4-5 の取扱いにおいて定められている「これらの建物等に代わるべき建物等」という要件がないことから、初めて居住用建物を取得等して居住しようとするケースについてもその適用があります。

2 売買契約中の土地等又は建物等に係る相続税の財産・債務に関する取扱いと小規模宅地等の特例の適用関係

(1)売買契約中の土地等又は建物等に係る相続税の財産・債務に関する取扱い

 売買契約中の土地等又は建物等に係る相続税の課税に当たり、土地等又は建物等の売買契約締結後その土地等又は建物等の売主から買主への引渡し日(その土地等が売買について農地法3条《農地又は採草放牧地の権利移動の制限》1項若しくは5条《農地又は採草放牧地の転用のための権利移動の制限》1項本文の規定による許可又は同項7号の規定による届出を要する農地又は採草放牧地である場合には、その許可の日又はその届出の効力の生じた日後にその土地の所有権が売主から買主へ移転したと認められる場合を除き、その許可の日又は届出の効力の生じた日)前にその売主又は買主に相続が開始した場合には、その相続に係る相続税の課税上、その売主又は買主たる被相続人の相続人その他の者が、その売買契約に関し当該被相続人から相続等により取得した財産及び承継した債務については、その土地等又は建物等の所有権が売主から買主に移転しているかどうかを問わず、それぞれ次のように取り扱われています(平成3年1月11日付資産税課情報「売買契約中の土地等又は建物等に係る相続税の課税等について」)。

① 売主に相続が開始した場合には、相続又は遺贈により取得した財産は、その売買契約に基づく土地等又は建物等の譲渡の対価のうち相続開始時における未収入金(売買残代金請求権)

② 買主に相続が開始した場合には、相続又は遺贈により取得した財産は、その売買契約に基づく土地等又は建物等の引渡請求権等として、その財産取得者の負担すべき債務は、相続開始時における未払金
 ただし、買主に相続が開始した場合において、その土地等又は建物等を相続財産とする申告があった場合には、それを認める。
 この場合における当該土地等又は建物等の価額は、当該土地等について小規模宅地等の特例の適用がある場合を除き、財産評価基本通達により評価した価額(同通達6《この通達の定めにより難い場合の評価》の適用を排除するものではありません。)による。

(2)小規模宅地等の特例の適用関係

① 売主に相続が開始した場合には、相続財産は土地等又は建物等ではなく売買残代金請求権であることから、その土地等について小規模宅地等の特例の適用はありません。

② 買主に相続が開始した場合には、相続財産は土地等又は建物等とする申告が認められ、その建物等について 措通69の4-5 ・ 69の4-8 の取扱い、すなわち「当該建物等の取得後被相続人等が事業の用又は居住の用に供する前に被相続人について相続が開始した場合」に該当することから、その土地等について小規模宅地等の特例の適用があります。
 もっとも、被相続人の貸付事業が、相続開始の日まで3年を超えて引き続き特定貸付事業に該当しない場合には、当該売買契約中の土地等は「相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当することから、小規模宅地等の特例の適用はありません( 措通69の4-24の3 )。

(注)   措通69の4-24の3 《新たに貸付事業の用に供されたか否かの判定》の定めにより、貸家の建替えのケースについては3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等には当たりませんが、貸家の移転(買換え)のケースについては、「当該建物等の移転先の宅地等は移転前の宅地等とは異なることから、当該移転先の宅地等は相続開始前3年以内に新たに貸付け事業の用に供された宅地等に該当する」(大野隆太編「相続税・贈与税関係 租税特別措置法通達逐条解説」(大蔵財務協会)103頁)とされています。

3 貸家及び貸家建付地について減額評価する趣旨

 財産評価基本通達93 《貸家の評価》及び 同通達26 《貸家建付地の評価》は、貸家及びその敷地の用に供されている宅地について減額評価する旨定めています。
 これらの各定めの趣旨は、①借家権の目的となっている建物の賃借人は、一般にその建物に対する使用収益権を有するとともに、その敷地についても借家権に基づいて建物の利用の範囲内で敷地利用権を有しており、賃貸人は、自己使用の必要性等の正当の事由がある場合を除き、賃貸借契約の更新を拒絶したり、解約の申入れをしたりすることができないことから(借地借家法28)、借家権を消滅させるためには立退料の支払を要することになること、②借家人は、建物の引渡しを受けたときは、その後その建物について物権を取得した者に対し借家権の効力を対抗することができ(同法31)、建物に借家権を付着させたままで建物及びその敷地を譲渡する場合には、その譲受人は、建物及びその敷地の利用について制約を受けること等から、その建物及びその敷地の経済的価値が、借家権の目的となっていない建物やその敷地に比べて低くなることを考慮したことにあると解されます。
 このような評価通達の趣旨及び 相続税法22条 が相続により取得した財産の価額をその取得の時における時価によるものとしていることからすると、貸家及び貸家建付地として減額評価できるのは、課税時期において現に借家権の目的となっている建物及びその敷地の用に供されている宅地に限られると考えます。

(注)  敷地利用権について東京高裁昭和34年4月23日判決は、「元来住宅に使用するための家屋の賃貸借契約において、その家屋に居住し、これを使用するため必要な限度でその敷地の通常の方法による使用が随伴することは当然であって、この場合その敷地の占有使用につきことさらに賃貸人の同意を得る必要はない。然しながらその使用占有は飽迄も賃借家屋の使用占有に伴うもの、言い換えれば本来の目的たる家屋の使用占有する上において常識上当然とされる程度に限られるものと言わなければならない。」旨判示しています。

4 売買契約解除後の状態を相続税の申告に反映できる場合

 相続開始後に、被相続人(売主)が締結していた土地の売買契約を同人に係る相続税の申告期限までに相続人が解除していた場合の課税財産の種類が争われた訴訟において広島地裁平成23年9月28日判決は、「納税申告前(又は法定申告期限前)の解除については、国税通則法上、明示的な規定はないが、いわゆる後発的事由に基づく更正の請求においては、上記のとおり、解除権の行使による解除とそれ以外の解除が区別されて、後者についてはやむを得ない事情が要求されており、これは、恣意的な解除(合意解除など)による税負担の不当な軽減を防止する趣旨であると解されるところ、この趣旨は、納税申告前の解除についても妥当するものであるから、納税申告前(又は法定申告期限前)の解除についても、更正の請求の規定(同法23条2項3号、同法施行令6条1項2号)に準じて、当該契約が、①解除権の行使によって解除された場合、又は、②当該契約の成立後に生じたやむを得ない事情によって解除された場合に限り、課税関係に影響を及ぼすと解釈すべきである。」旨判示しています(東京地裁令和2年10月29日判決同趣旨)。
 そうすると、相続税の申告期限前に契約が法定解除又は約定解除され、かつ、その契約により生じた経済的成果を消滅させていた場合、あるいは当該申告期限前に契約が合意解除され、かつ、その契約により生じた経済的成果を消滅させていた場合において、その解除についてやむを得ない事情が認められるときには、その解除後の状態を相続税の申告に反映することが可能と解されます。
 なお、合意解除の場合の「やむを得ない事情」とは、法定の解除事由がある場合、事情の変更により契約内容に拘束力を認めるのが不当な場合、その他これに類する客観的な理由のある場合をいうものと解されており(最高裁平成10年1月27日判決)、租税負担の軽減目的などの主観的な理由に基づくものはこれに当たらないと解されています(東京地裁令和2年10月29日判決、最高裁平成18年2月23日判決)。

5 質疑への当てはめ

(1)①案においてA物件の敷地について小規模宅地等の特例の適用の可否

 措通69の4-8 の取扱いは、居住用建物の建築中にも適用されますが、上記1の(2)①のとおり、小規模宅地等の特例の適用を受けるためには、相続開始時において、少なくともその土地上において現実に居住用建物の建築工事が着手されていることが必要であると解されています。
 甲の相続開始の時において、同人が居住していたA物件は取り壊された状態、すなわちA物件は更地の状態にあり、B物件の建築工事に着手されていません。
 そうすると、 措通69の4-8 の取扱いの適用はないことから、A物件の敷地について小規模宅地等の特例の適用はありません。

(2)②案においてA物件の敷地について小規模宅地等の特例の適用の可否

土地等又は建物等の売買契約中に売主に相続が開始した場合における相続財産は、上記2の(1)①のとおり、その土地等又は建物等ではなく、その売買契約に基づく売買残代金請求権です。
 そうすると、売買契約中に係るA物件については、相続財産は債権(売買残代金請求権)ですから、同物件の敷地について小規模宅地等の特例の適用はありません(平成9年5月14日公表裁決)。

(3)②案においてC物件及びD物件の敷地について小規模宅地等の特例の適用の可否

 土地等又は建物等の売買契約中に買主に相続が開始した場合における相続財産は、上記2の(1)②のとおり、その売買契約に基づく土地等又は建物等の引渡請求権等ですが、その土地等又は建物等を相続財産とする申告があった場合には、それを認めるとともに、その土地等について小規模宅地等の特例の適用を容認しています。つまり、その土地等又は建物等を相続財産とする申告をした場合、 措通69の4-5 ・ 69の4-8 の取扱いにより、その土地等について小規模宅地等の特例の適用が認められるということです。
 ただし、 措通69の4-5 の取扱いは、新規に事業を開始するケースについては小規模宅地等の特例の適用がありません。
 そうすると、C物件の敷地については、相続財産を同物件の土地建物とする申告をした場合には、同土地について一定の要件を満たす限り小規模宅地等の特例の適用があります。
 一方、D物件の敷地については、甲が新たに貸付事業を開始するために取得するものですから、 措通69の4-5 の取扱いの適用はなく、同敷地について小規模宅地等の特例の適用がありません。

(4)①案のB物件(賃貸用部分)又は②案のD物件について貸家及び貸家建付地として減額評価の可否

 貸家及び貸家建付地として減額評価できるのは、上記3のとおり、課税時期において現に借家権の目的となっている建物及びその敷地の用に供されている宅地に限られます。
 そうすると、B物件(賃貸用部分)又はD物件は、相続開始日において賃貸借契約は締結されておらず、評価上の減額要素となる賃借人のそれぞれの建物に対する使用収益権及び同建物の敷地に対する敷地利用権は存在しませんから、それぞれの建物及び敷地は自用のものとして評価するのが相当と考えます(平成4年12月9日公表裁決)。

(5)②案において甲の相続人がA物件の売買契約を相続税の申告期限までに解除した場合には、相続財産はA物件(土地・建物)として申告することの可否

 土地等又は建物等に係る売買契約の解除後の状態を相続税の申告に反映できる場合とは、上記4のとおり、その申告期限前に当該売買契約が法定解除又は約定解除され、かつ、その契約により生じた経済的成果を消滅させていた場合、あるいは納税申告前に契約が合意解除され、かつ、その契約により生じた経済的成果を消滅させていた場合において、その解除についてやむを得ない事情が認められるときには、その解除後の状態を相続税の申告に反映することが可能と解されています。
 そうすると、ご質問のケースにおいて売買契約が如何なる理由により解除されるのか明らかではありませんが、その解除理由の次第によっては相続財産をA物件(土地・建物)として申告することができると解されます。

財産評価基本通達14-3「特定路線価」について

 路線価地域内の土地の評価に当たっては、設定されている路線価に基づいて評価するのであるが、路線価の設定されていない道路のみに接している宅地等を評価する場合には、財産評価基本通達14-3「特定路線価」の定めにより評価することとなるため、実務上は、税務署長(広域運営担当の評価専門官)に「特定路線価設定申出書」を提出することになる。

(特定路線価)
14-3 路線価地域内において、相続税、贈与税又は地価税の課税上、路線価の設定されていない道路のみに接している宅地を評価する必要がある場合には、当該道路を路線とみなして当該宅地を評価するための路線価(以下「特定路線価」という。)を納税義務者からの申出等に基づき設定することができる。
  特定路線価は、その特定路線価を設定しようとする道路に接続する路線及び当該道路の付近の路線に設定されている路線価を基に、当該道路の状況、前項に定める地区の別等を考慮して税務署長が評定した1平方メートル当たりの価額とする。(平12課評2-4外追加、平14課評2-2外改正)

(参考)

(路線価)
14 前項の「路線価」は、宅地の価額がおおむね同一と認められる一連の宅地が面している路線(不特定多数の者の通行の用に供されている道路をいう。以下同じ。)ごとに設定する。
  路線価は、路線に接する宅地で次に掲げるすべての事項に該当するものについて、売買実例価額、公示価格(地価公示法(昭和44年法律第49号)第6条⦅標準地の価格等の公示⦆の規定により公示された標準地の価格をいう。以下同じ。)、不動産鑑定士等による鑑 定評価額(不動産鑑定士又は不動産鑑定士補が国税局長の委嘱により鑑定評価した価額をいう。以下同じ。)、精通者意見価格等を基として国税局長がその路線ごとに評定した1平方メートル当たりの価額とする。(昭41直資3-19・昭45直資3-13・昭47直資3-16・平3課評2-4外・平11課評2-2外・平11課評2-12外改正)

(1) その路線のほぼ中央部にあること。
(2) その一連の宅地に共通している地勢にあること。
(3) その路線だけに接していること。
(4) その路線に面している宅地の標準的な間口距離及び奥行距離を有するく形又は正方形のものであること。

(注) (4)の「標準的な間口距離及び奥行距離」には、それぞれ付表1「奥行価格補正率表」に定める補正率(以下「奥行価格補正率」という。)及び付表6「間口狭小補正率表」に定める補正率(以下「間口狭小補正率」という。)がいずれも1.00であり、かつ、付表7「奥行長大補正率表」に定める補正率(以下「奥行長大補正率」という。)の適用を要しないものが該当する。

(相続税法)

(評価の原則)
第二十二条 この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。
(土地評価審議会)
第二十六条の二 国税局ごとに、土地評価審議会を置く。
2 土地評価審議会は、土地の評価に関する事項で国税局長がその意見を求めたものについて調査審議する。
3 土地評価審議会は、委員二十人以内で組織する。
4 委員は、関係行政機関の職員、地方公共団体の職員及び土地の評価について学識経験を有する者のうちから、国税局長が任命する。
5 前二項に定めるもののほか、土地評価審議会の組織及び運営に関し必要な事項は、政令で定める。

《過去の裁決事例の紹介》

1 平成19年11月5日裁決
 (土地の評価方法についての争いであり、裁決全体では長文のため、審判所判断のうち特定路線価の是非部分のみ抜粋した。)

①倍率方式で評価する地域内に所在する市街地農地を評価するに当たり、当該農地が宅 地であるものとした場合における固定資産税評価額が明らかな場合には、当該固定資産税評価額を基として当該農地が宅地であるものとした場合の価額を算定すべきであり、また、 ②控除すべき造成費に給水管等敷設費は含まれないとした事例
                       ▼ 裁決事例集 No.74 – 357頁

(3) 主な争点に対する判断
 本件は、本件各土地の価額を算定するに当たり評価基本通達の適用、解釈等に争いがあるので、事実を関係法令等に照らして本件各土地ごとに審理したところ、次のとおりである。
イ 路線価の設定されていない道路に接面する土地の評価方法について
(イ) 請求人らの本件A土地の評価方法について
 請求人らは、本件A北路線に設定された路線価にX市が固定資産の評定に用いる査定率を乗じて評定した価額を本件A土地西側市道の路線価(以下「請求人路線価」という。)として、本件A土地の価額を算定するべきである旨主張する。
 しかしながら、相続財産の評価に当たり、評価基本通達により評価することは、上記(2)のとおり、同通達の定めに該当する場合には、同通達が画一的に適用されることにより納税者間における実質的な租税負担の公平が図られることなどに合理的理由があると解されるところ、請求人路線価に基づく本件A土地の評価方法は、X市における固定資産税の路線価の取扱いを参考としているものの、請求人路線価は、請求人らからの申出等に基づき所轄税務署長が設定する特定路線価ではないし、また、当該特定路線価に等しいことも明らかではないことから、同通達の定めに基づかない独自の評価方法というほかはなく、採用することができない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
(ロ) 原処分庁が主張する評価方法について
 原処分庁は、本件A北路線に設定された路線価を基に評価基本通達20-3に定める無道路地の評価に準じて本件A土地の価額を算定するべきである旨主張する。
 ところで、評価基本通達に従って評価する場合、本件A土地のように路線価の設定されていない道路のみに接している宅地につき、特定路線価を設定することなく、その道路(本件の場合、本件A土地西側市道)に接続する路線(本件の場合、本件A北路線)の路線価を基に、その接続路線と評価対象地である本件A土地との位置関係等に基づき同通達に定める画地調整を行って評価することも不合理とはいえない。なぜなら、一般に、その土地がその接続路線から遠く離れている場合や地区区分が異なる場合などを除き、その接続路線の影響を受けていると解されるからである。
 これを本件についてみると、本件A土地は、 ①本件A土地と本件A北路線の間に本件A土地北側土地が介在するという本件A北路線と本件A土地の位置関係にあること、 ②路線価の設定されている本件A北路線から奥行距離が16.5 mである本件A土地北側土地に接しており、住宅1軒分奥に入っただけの位置にあること、③ 本件A土地及び本件A土地北側土地は、いずれもUが本件相続により取得していること並びに ④本件A土地西側市道に面していることからすると、本件A土地の評価額を算定するに当たり、本件A北路線に設定された路線価を基に評価基本通達20-3に定める同通達20の不整形地の評価方法を採用することが特に不合理とまではいえず、同通達に則った評価方法ということができる。
 そして、原処分庁は、本件A土地について無道路地に準じて評価すべきである旨主張しているが、別紙3-1の「原処分庁」欄の1の本件A土地の主張額のとおり、通路開設部分に係るしんしゃくを行っておらず、実質的には評価基本通達20に基づき、本件A土地が本件A土地北側土地をかげ地とする不整形地であるとして評価しているものと認められ、結論としては不合理とはいえないものと解される。

2 平成24年11月13日裁決

特定路線価の評定方法に不合理と認められる特段の事情がない限り特定路線価を正面路線価として評価するのが相当とした事例

《ポイント》
 本事例は、路線価の設定されてない道路のみに接する宅地を評価する場合において、当該道路に特定路線価が設定されているときは、当該特定路線価の評定方法に不合理と認められる特段の事情がない限り、当該道路と接続する路線に設定されている路線価を正面路線価として評価する方法よりも、当該特定路線価を正面路線価として評価する方法が合理的であることを初めて明らかにしたものである。
《要旨》
 請求人らは、相続により取得した各土地(本件各土地)は、路線価の設定されていない位置指定道路(本件位置指定道路)のみに接面しており、本件位置指定道路は、路線価の付された市道(本件市道)に接続しているところ、本件各土地の評価に当たっては、本件位置指定道路に設定された特定路線価(本件特定路線価)ではなく、本件市道に付された路線価を正面路線価とすべきである旨主張する。
 しかしながら、特定路線価を設定して評価する趣旨は、評価対象地が路線価の設定されていない道路のみに接している場合であっても、評価対象地の価額をその道路と状況が類似する付近の路線価の付された路線に接する宅地とのバランスを失することのないように評価しようとするものであって、このような趣旨からすると、特定路線価は、路線価の設定されていない道路に接続する路線及び当該道路の付近の路線に設定されている路線価を基にその道路の状況、評価しようとする宅地の所在する地区の別等を考慮して評定されるものであるから、その評定において不合理と認められる特段の事情がない限り、当該特定路線価に基づく評価方法は、路線価の設定されていない道路のみに接続する路線に設定された路線価を基に画地調整を行って評価する方法より合理的であると認められる。本件特定路線価の評定についてみると、不合理とみられる特段の事情は見当たらないから、本件各土地の価額は、本件特定路線価を正面路線価として評価するのが相当である。

3 令和2年8月21日裁決

部名  東京     裁決番号  令020009     裁決年月日  令020821 
裁決結果  棄却  争点番号  400802022 
争点  8財産の評価/2土地及び土地の上に存する権利/2宅地及び宅地の上に存する権利/2正面路線価
事例集登載頁  裁決事例集には登載しておりません
裁決要旨
 ○請求人らは、路線価の設定されていない道路のみに接する土地(本件土地)の評価に当たり、当該道路に接続する路線(本件接続路線)に設定された路線価(本件接続路線価)を基に評価するべきであり、そのように評価することが実情に即さない場合に当該道路に設定された特定路線価を基に評価すべきである旨主張する。しかしながら、路線価の設定されていない道路のみに接する宅地の価額は、当該道路に特定路線価が設定されている場合は、その特定路線価の評定について不合理と認められる特段の事情がない限り、特定路線価を基に評価することが合理的であるところ、原処分庁の申出により当該道路に設定された特定路線価(本件特定路線価)は、その評定において不合理と認められる特段の事情があるとは認められないから、本件土地の価額は、本件特定路線価を基に評価すべきである。(令2.8.21東裁(諸)令2-9)

《補足説明》

1 平成19年11月5日裁決
これは、納税者が特定路線価設定の申し出をせずに、路線価が設定されている路線を基に該当土地を評価したものであり、税務署も同様に評価して争った事案です。したがって、特定路線価の設定はしていません。

2 平成24年11月13日裁決
 これは、納税者が特定路線価の申し出を行い、特定路線価を設定したのですがそれを使わずに、不動産鑑定評価額を基に該当土地を評価したものです。これに対して税務署は、納税者の申し出により設定した特定路線価に基づいて争った事案です。

3 令和2年8月21日裁決
 これは、「1」と同様に、納税者が特定路線価設定の申し出をせずに、路線価が設定されている路線を基に該当土地を評価したものであり、これに対し、税務署は、独自に特定路線価を申し出た上で設定し、この特定路線価に基づいて該当上地を評価して争った事案です。
 この事案は、被相続人の住所地を所轄する税務署が、該当土地を所轄する税務署に対し特定路線価の設定を申し出たという今までにない手法で争った事案です。
 税務署が特定路線価の設定を申し出ることが出来るという根拠は、添付の国税庁が制定した「資産税事務提要(事務手続編)」(公表)の13「特定路線価の評定」の(2)「特定路線価の評定の依頼」になります。

《参考資料》

【資産税事務提要】
(事務手続編)
平成27年6月 国税庁 資産課税課 資産評価企画官

13 特定路線価の評定
 路線価地城内において、路線価の設定されていない道路のみに接している土地等を評価する場合に、当該道路の状況及び当該道路と当該道路に接続する路線の状況の格差、当該土地等の位置等からみて、路線価を基として評価することが不適当と認められるときは納税義務者からの申出等に基づき、特定路線価を評定する。
(1)特定路線価の設定の申出
 納税義務者から、相統税、贈与税又は地価税の申告こ当たり、特定路線価の設定の申出があった場合には、納税義務者に対し「平成_年分 特定路線価設定申出書」(9 -29)及び「別紙 特定路線価により評価する土地等及び特定路線価を設定する道路の所在地、状況等の明細書」(9-30)を交付し、所定の事項を記載の上、評価する土地等の位置、形状等及び特定路線価の設定を申し出る道路の案内図等を添付して、原則として、納税地を所轄する税務署の署長に提出するよう依頼する。
 納税地の所轄税務署長等は、必要に応じて、特定路線価設定申出書等を評価する土地等の所在する地域の特定路線価の評定を行う税務署(以下、「特定路線価評定担当署」という。)に、添付書類とともに転送し、その皆を納税義務者に連絡する。
 なお、特定路線価設定申出書が評価する土地等の所在地を所轄する税務署等の署長に提出された場合には、これを受け付け、添付書類とともに特定路線価評定担当署に転送し、その旨を納税義務者に連絡する。
 また、特定路線価設定申請書が特定路線価評定担当署に提出された場合にも、これを受け付けることに留意する。
(2)特定路線価の設定の依頼
 納税地の所轄税務署長は、相統税、贈与税又は地価税の課税価格等の算定に当たり、特定路線価の設定が必要であると認められる場合には、必要に応じて、当該土地等の特定路線価評定担当署の署長に対して「平成 年分 特定路線価設定依頼・回答書」(9-31)及び「別紙 特定路線価により評価する土地等及び特定路線価を設定する道路の所在地、状況等の明細書」に所定の事項を記載の上、特定路線価の設定を依頼する。
(3)特定路線価設定事績整理簿の整理
 特定路線価の設定の申出又は依頗があった場合には、申出者名又は依頼した納税地の所轄税務署名、その他必要な事項を「特定路線価設定事績整理簿」(9 -32)に記載し整理する。
(注)「特定路線価設定事績整理簿」は、納税地の所轄税務署、特定路線価評定担当署の双方でそれぞれ記載することに留意する。
(4)申出内容の検討
 「平成_年分 特定路線価設定申出書」の提出があった場合には、評価する土地等の位置、評価単位等の点から真に特定路線価を設定する必要があるかどうかを検討し、当該道路に接続する路線の路線価を基に評価することが適当と認められる場合には、特定路線価の設定が不要であることを説明し、その事績を「特定路線価設定事績整理簿亅に記載する。
(5)特定路線価の坪定
 特定路線価の設定が必要な場合には、次のイ又はロの方法により特定路線価を評定し、「特定路線価評定調書兼決議書」(9 -35)により決裁を受ける。
              第9章一49              26.6

トランクルームの賃貸業務に係る課税関係

《質問》

 個人が行うトランクルーム賃貸業務に関わる課税関係全般についての質問です。トランクルームはコンテナ型でなく、コンクリート基礎打設してその上に軽量鉄骨造の2階建て小規模建築物を建築、内装工事として室内にトランクルーム25個を設置、中にエレベータも設置しています(全て同一工事契約です。)。そのトランクルルーム収納スペースの賃貸となります。
(1)トランクルーム賃貸の所得区分は、どのようになりますか。年間収入金額は300万円位です。
(2)サブリースの場合には、上記(1)の所得区分は変わりますか。
(3)耐用年数は何年でしょうか。また、建築確認申請する場合としない場合で変わりますか。
(4)当該建築物は、償却資産税の対象でしょうか。それとも建物として固定資産税が賦課でしょうか。
(5)相続税の財産評価をする場合、当該トランクルームの敷地について貸家建付地評価とはなりませんか。また、サブリースの場合も同様に貸家建付地評価できないでしょうか。
(6)個人は従前から駐車場業(アスファルト敷)を行っておりますが、事業的規模ではありません。この場合このトランクルームの敷地に小規模宅地等の評価減はできますでしょうか。また、サブリースの場合は小規模宅地等の評価減はできますか。

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