確定申告に当たっての注意すべき事項⑴

今年も確定申告に当たって注意すべき事項を解説させていただきます。
今回は、令和3年度から影響する主な改正点について説明させていただきます。

1 国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の改正
 ⑴ 国外の中古建物の賃貸による所得について損失が生じた時は、その損失の内、国外中古建物に係る減価償却費㊟相当額の損失は生じなかったものとみなすことになりました。したがって、その損失額は所得内通算や他の所得との損益通算はできません。
㊟ 減価償却費の算出にあたり、耐令3①一または二(中古資産)の規定による耐用年数としているものだけが該当します。
 ⑵ 国外中古建物を譲渡する場合には、生じなかったものとみなす建物の減価償却費相当額の損失は、譲渡所得の計算上取得費に含めて所得金額を算出します。
 なお、上記の改正は、令和3年分から適用されます。令和3年以降取得する国外中古建物だけでなく、令和2年以前から所有していた国外中古建物についても上記特例が適用になります(令和2年度改正、措法41の4の3)。
 ⑶ 申告に際しては、青色申告決算書又は収支内訳書に次の付表《国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例》を添付します。
※[付表のリンク]
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/pdf/0021012-103_02.pdf

2 住宅税制(「令和3年度 所得税の改正のあらまし」より)
 住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除に係る居住の用に供する期間等の特例 (新型コロナ税特法6の2)について、次のとおり、措置が講じられました。
 ① 住宅の新築取得等で特別特例取得に該当するものをした個人が、その特別特例取得をした家屋を令和3年1月1日から令和4年 12月 31 日までの間にその者の居住の用に供 した場合には、住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除、認定住宅の新築等に 係る住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除の特例及び東日本大震災の被災者 等に係る住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除の控除額に係る特例並びにこれらの控除の控除期間の3年間延長の特例を適用することができることとする(新型コ ロナ税特法6の2①)。
 ② 個人又は住宅被災者が、国内において、特例居住用家屋の新築取得等で特例特別特例取得に該当するものをした場合には、上記①の住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除に係る居住の用に供する期間等の特例を適用することができることとする。た だし、その者の13年間の控除期間のうち、その年分の所得税に係る合計所得金額が1,000 万円を超える年については、この②の特例を適用しない(新型コロナ税特法6の2④~ ⑦)。
(注)1 上記①の「特別特例取得」及び上記②の「特例特別特例取得」とは、それぞれその取得に係る対価の額又は費用の額に含まれる消費税額等相当額が、その取得に係る課税資産の譲渡等につき現行の消費税率により課されるべき消費税額及び当該 消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額の合計額に相当する額であ る場合における住宅の新築取得等又は特例居住用家屋の新築取得等のうち、その契 約が次の期間内に締結されているものをいう(新型コロナ税特法6の2②⑩、新型 コロナ税特令4の2①⑭)。
 イ 家屋の新築の場合…令和2年 10月1日から令和3年9月 30 日まで
 ロ 家屋の取得又は家屋の増改築等の場合…令和2年 12月1日から令和3年 11 月 30 日まで
(注)2 上記②の「特例居住用家屋」とは、居住の用に供する次の家屋をいう(新型コロ ナ税特法6の2④、新型コロナ税特令4の2②)。
イ 一棟の家屋で床面積が 40 ㎡以上 50 ㎡未満であるもの
ロ 一棟の家屋で、その構造上区分された数個の部分を独立して住居その他の用途 に供することができるものにつきその各部分を区分所有する場合には、その者の 区分所有する部分の床面積が 40 ㎡以上 50 ㎡未満であるもの
 ③ 要耐震改修住宅を耐震改修した場合の特例についても上記①及び②の特例が適用で きる措置を講じるほか、所要の改正を行う(新型コロナ税特法6の2⑥⑧等)。
※詳細は、下記リンクを参考にしてください。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1213.htm

3 還付申告義務見直し
 所得税の確定所得申告(所法 120)等について、その計算した所得税の額の合計額が配当控除の額を超える場合であっても、控除しきれなかった外国税額控除の額があるとき、控除しきれなかった源泉徴収税額があるとき、又は控除しきれなかった予納税額がある ときは、その申告書の提出を要しないこととするほか、源泉徴収税額等及び予納税額の還付に係る還付加算金の計算期間等について、所要の整備が行われました(所法 120、122、123、125、127、159、160、166 等)
 この改正は、令和4年1月1日以後に提出期限が到来する所得税の確定申告書について適用されます(改正法附則7)。
○ケース1
給与所得 500万円(年調済み)医療費控除30万円 申告納税額▲2万円
【改正前・還付申告(確定申告義務なし)➡ 改正後・変わらず】
○ケース2
給与所得 200万円 雑所得(公的年金)150万円
所得控除250万円 源泉徴収税額10万円 申告納税額▲5万円
【改正前・確定申告義務あり➡ 改正後・還付申告(確定申告義務なし)】
○ケース3
事業所得(青色控除65万円) 300万円 所得控除 200万円 源泉徴収税額 40万円
申告納税額 ▲35万円
【改正前・確定申告義務あり➡ 改正後・還付申告(確定申告義務なし】
(注) 青色申告特別控除(55万円又は65万円)の適用を受けるためには、確定申告期限までに申告書の提出をする必要があります(措置法通達25の2-6)。
 また、確定申告義務がなくなった方でも一定の基準を超えた場合、財産債務調書の提出を要します(国外送金調書法6の2)。
※詳細は、下記リンクを参考にしてください。
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hotei/zaisan_saimu/pdf/zaisan_chirashi.pdf

4 中小事業者が機械等を取得した場合の特別償却又は所得税額の特別控除(「令和3年度 所得税の改正のあらまし」より)
 その対象資産から匿名組合契約その他これに類する一定の契約の目的である事業の用に供するものを除外した上、その適用期限が2年延長されました(措法 10 の3①)。
 この改正は、令和3年4月1日以後に取得等をする対象資産について適用されます(改正法附則 27)。

5 適用期限の延長措置(「令和3年度 所得税の改正のあらまし」より)
次の措置について、その適用期限が2年延長されました。
① 地域経済牽引事業の促進区域内において特定事業用機械等を取得した場合の特別償 却又は所得税額の特別控除(措法 10 の4①)。
② 特定中小事業者が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は所得税額の 特別控除(措法 10 の5の3①)。
③ 医療用機器等の特別償却(措法 12 の2①~③)。
④ 事業再編計画の認定を受けた場合の事業再編促進機械等の割増償却(措法 13 の2①)。
⑤ 特定都市再生建築物の割増償却(措法 14①)

6 税務関係書類における押印義務(「令和3年度 所得税の改正のあらまし」より)
 提出者等の押印をしなければならないこととされている税務関係書類において、原則として、押印を要しないこととするほか、所要の措置が講じられました(通則法 124②等)。

7 確定申告からふるさと納税(寄附金控除)の申告手続が簡素化
 制度の概要
 寄附金控除の適用を受けるためには、確定申告書に特定寄附金の受領者が発行する寄附ごとの「寄附金の受領書」の添付が必要とされていますが、令和3年分の確定申告から、特定寄附金の受領者が地方団体であるとき(ふるさと納税であるとき)は、寄附ごとの「寄附金の受領書」に代えて、特定事業者が発行する年間寄附額を記載した「寄附金控除に関する証明書」を添付することができることとされました。
 寄附金控除に関する証明書の提供を受けた寄附者は、次の方法により確定申告を行うことができます。
・ 特定事業者のポータルサイトからダウンロードした証明書データをe-Taxを活用して確定申告書に添付して送信する方法
※ 確定申告書等作成コーナーでは、証明書データを自動反映させて控除額の計算を行うことができます(個々のデータを入力する必要がないので便利です。)。
・ 特定事業者のポータルサイトからダウンロードした証明書データを国税庁が提供するQRコード付証明書等作成システム(注)で読み込み、これをプリントアウトした書類を確定申告書に添付して申告する方法
(注) QRコード付証明書等作成システムについては、令和3年10月頃、更新し、「寄附金控除に関する証明書」の出力に対応する予定です。
・ 郵送で交付を受けた証明書を確定申告書に添付して申告する方法

8 利子所得の分離課税等(「令和3年度 所得税の改正のあらまし」より)
 同族会社が発行した社債の利子等で、その 同族会社の判定の基礎となる株主である法人と特殊の関係のある個人及びその親族等が 支払を受けるものを、総合課税の対象とすることとされました(措法3①四、措令1の4 ⑤等)。
 (注)
 1 上記の「法人と特殊の関係のある個人」とは、その法人との間に発行済株式等 の 50%超の保有関係等がある個人をいいます(措令1の4③④等)。
 2 一般株式等に係る譲渡所得等の課税の特例(措法 37 の 10)における償還金についても同様の改正が行われています。
 《適用関係》この改正は、令和3年4月1日以後に支払を受けるべき社債の利子等について 適用されます(改正法附則16等)。

9 経営セーフティ共済の必要経費に関する明細書
 個人事業主が、独立行政法人中小企業基盤整備機構が行う中小企業倒産防止共済法の規定による中小企業倒産防止共済事業に係る基金に充てるための同法第二条第二項に規定する共済契約に係る掛金(通称「経営セーフティ共済掛金』といいます。)を支出した場合には、『特定の基金に対する負担金等の必要経費算入に関する明細書(下記サイトを参照してください。)』に必要事項を記入し、確定申告書に添付する必要がありますのでご注意ください。。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/yoshiki/02/pdf/061.pdf

10 その他
 次の事項は、改正ではありませんが、家事関連費の按分の際に影響がでることも考えられますので紹介させていただきます。(「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」より)
 【問6】 通信費に係る業務使用部分の計算方法
従業員が負担した通信費について、在宅勤務に要した部分を支給する場合、業務のため に使用した部分はどのように計算すればよいですか。
 【答】
〇 電話料金
イ 通話料
 通話料(下記ロの基本使用料を除きます。)については、通話明細書等により業務の ための通話に係る料金が確認できますので、その金額を企業が従業員に支給する場合 には、従業員に対する給与として課税する必要はありません。 なお、業務のための通話を頻繁に行う業務に従事する従業員については、通話明細書等による業務のための通話に係る料金に代えて、例えば、次の【算式】により算出 したものを、業務のための通話に係る料金として差し支えありません。
(注)業務のための通話を頻繁に行う業務とは、例えば、営業担当や出張サポート担 当など、顧客や取引先等と電話で連絡を取り合う機会が多い業務として企業が認めるものをいいます。
ロ 基本使用料
 基本使用料などについては、業務のために使用した部分を合理的に計算する必要があります。
例えば、次の【算式】により算出したものを企業が従業員に支給する場合には、従業員に対する給与として課税しなくて差し支えありません。
〇 インターネット接続に係る通信料 基本使用料やデータ通信料などについては、業務のために使用した部分を合理的に計算する必要があります。 例えば、次の【算式】により算出したものを企業が従業員に支給する場合には、従業員に対する給与として課税しなくて差し支えありません。
(注)従業員本人が所有するスマートフォンの本体の購入代金や業務のために使用したと認められないオプション代等(本体の補償料や音楽・動画などのサブスクリプションの利用料等)を企業が負担した場合には、その負担した金額は従業員に対する給与と して課税する必要があります。

【算式】
業務のために     従業員が負担した  その従業員の1か月の   ※
使用した基本  = 1か月の基本使用料 ×  在宅勤務日数  × 1/2
使用料や通信料等   や通信料等       該当月の日数

※ 上記算式の「1/2」については、1日の内、睡眠時間を除いた時間の全てにおいて 均等に基本使用料や通信料が生じていると仮定し、次のとおり算出しています。
 ① 1日:24 時間
 ② 平均睡眠時間:8時間 (「平成 28 年社会生活基本調査」(総務省統計局)で示されている7時間 40 分を切上げ)
 ③ 法定労働時間:8時間
 ④ 1日の内、睡眠時間を除いた時間に占める労働時間の割合 :
  ③÷(①-②)= 8時間/(24 時間-8時間)= 1/2
【例】 従業員が9月に在宅勤務を 20 日間行い、1か月に基本使用料や通信料1万円を負担し た場合の業務のために使用した部分の計算方法。
      
10,000 円 ×  20 日(在宅勤務日数) × 1/2= 3,334 円(1円未満切上)
        30 日(9月の日数)
(注)上記の算式によらずに、より精緻な方法で業務のために使用した基本使用料や通信 料の金額を算出し、その金額を企業が従業員に支給している場合についても、従業員 に対する給与として課税しなくて差し支えありません。

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