今回は、所得税関係の一般的な取扱いで誤りやすい事例を解説させていただきます。
【問1】
年の中途で死亡した場合、被相続人に所得があった際の申告等はどのようになりますか。
【答】
次表のようになります。
死亡時期 | 所得税 | 住民税 |
令和3年(2年分確定申告後) | ・令和3年分死亡時までの所得について課税 ・相続人は死亡後4月以内準確定申告を要す |
・令和3年分(住民税では4年度)死亡時までの所得に対しては課税なし |
令和4年(3年分確定申告前) | ・令和3年分の1年間分、4年分死亡時までの所得について課税 ・相続人は死亡後4月以内に各年分について準確定申告を要す |
・令和3年分(住民税4年度)の所得については課税(相続人が納税義務) ・令和4年分(住民税5年度)死亡時までの所得については課税なし |
【問2】
一括償却資産で計上した後、相続または法人成した場合に必要経費算入はどうなりますか。
【答】
一括償却資産につき相続があった場合には、一括償却資産の取得価額のうち必要経費に算入されていない部分については、原則として死亡した日の属する年分の事業所得等の必要経費に算入することとし、例外的に死亡した日の属する年の翌年以後の各年分に対応する部分については、相続により業務を承継した者の必要経費に算入することとしても差し支えないものとされています(所得税基本通達49-40の3)。
法人成りの場合には、事業が廃止され、その事業を承継する人もいないので、一括償却資産の取得価額のうち必要経費に算入されていない部分は、全て廃業した日の属する年分の事業所得の必要経費に算入します(国税庁ホームページ「質疑応答事例」より)。
【問3】
居住用建物を取り壊して、業務用建物に建て替えた場合に、当該居住用建物の取壊しによる損失、取壊費用を必要経費に算入することはできますか。
【答】
非業務用資産の資産損失と取壊費用は、自己の財産の任意の処分と考えられているため、必要経費に算入することはできません(所法45①一)。また、新しく建てられる業務用建物の取得価額にも算入できません。
業務用資産を含む課税上の取扱いについては次表のとおりとなります。
建物の用途 | 取壊しの目的 | 取扱い | ||
資産損失 | 立退料 | 取壊費用 | ||
業務用資産 | 建替え後、業務用資産として使用 | 必要経費 (注2) |
必要経費 | 必要経費 |
建替え後、非業務用資産として使用 | 必要経費 (注1)(注2) |
必要経費(注1) | ||
非業務用資産 | 建替え後、業務用資産として使用 | 家事費 | 該当なし | 家事費 |
建替え後、非業務用資産として使用 |
(注1)アパートの賃貸をやめた後、建替工事が速やかに行われることが必要
(注2)事業的規模でない場合には所得金額が上限
【問4】
アパートの建築に際して支払った借入金利子、印紙代、登記費用、不動産取得税について必要経費等の処理はどのようになりますか。
【答】
アパート建築は請負契約時から業務開始となり、従って印紙代、登録免許税等登記費用、不動産取得税は所基通37-5によって必要経費算入となります。
借入金利息については、業務開始後(本件の場合建物建築請負契約後)使用開始前の期間利子は所基通37-27によって原則として必要経費算入となりますが、取得価額算入も認められます。使用開始後の期間利子は同通達によって必要経費算入となります。
① 固定資産取得時の租税公課の取扱い
業務用 | 非業務用 | |
固定資産税 | 必要経費 (所基通37-5) |
家事費 |
登録免許税(登記・登録費用含む) | 取得費算入 (所基通38-9) |
|
不動産取得税 |
※ 特許権・鉱業権の登録に係る登録免許税は取得費算入(所基通49-3)
※ 船舶・業務用車両等の登録費用は必要経費又は取得費算入の選択(所基通49-3)
② 借入金利息(抵当権設定費用等含む)の取扱い
(1)業務用
項目 | 取扱内容 | |
業務開始前の期間利子 | 取得費算入(所基通37-27)(注)➡所基通38-8 (非業務用資産取得のための借入金利子と同じ扱い) |
|
業務開始後・使用開始前の期間利子 | 原則 | 必要経費(所基通37-27) |
例外 | 取得価額算入(所基通37-27) | |
使用開始後の期間利子 | 必要経費(所基通37-27) |
(2)非業務用
項目 | 取扱内容 |
取得から使用開始前までの期間利子 | 取得費算入(所基通38-8) |
使用開始後の期間利子 | 家事費 |
【問5】
事業所得者や不動産所得者の青色申告承認申請の提出期限はどのようになっていますか。
【答】
次表のとおりとなります。
事例 | 提出期限 | ||
通常 | 原則 | 承認を受けようとする年の3/15 | |
1/16以降業務開始 | 業務開始から2月以内 | ||
相続の場合 | 被相続人 青色 |
死亡日1/1~8/31 | 死亡日から4月以内 |
〃9/1~10/31 | 死亡年の12/31 | ||
〃11/1~12/31 | 翌年2/15 | ||
被相続人 白色 | 業務開始から2月以内 |
(所法144、所基通144-1)
【問6】
青色専従者給与の届出の期限はどのようになっていますか。
【答】
次表のとおりとなります。
事例 | 提出期限 | |
通常 | 原則 | 承認を受けようとする年の3/15 |
1/16以降業務開始又は新規に専従者 | 業務開始から2月以内 | |
専従者給与の額の変更又は新たに専従者が加わる | 遅滞なく |
【問7】
事業所得が赤字で、不動産所得が事業として行われていない場合の青色申告特別控除額(55万円又は65万円)は適用できますか。
【答】
不動産所得が事業として行われていなくても、事業所得がある場合には、他の要件を満たすことで、青色申告特別控除55万円(e-Taxの場合65万円)を不動産所得から差し引けます(措法25の2③)。
【問8】
退職所得の所得税、住民税における課税の取扱いの違いを説明してください。
【答】
所得税においては、源泉徴収され通常は確定申告に含める必要はありません。しかし、給与所得等総所得金額から所得控除が差し引けない時は、退職所得を申告のうえ所得控除額を差し引きすることができます(結果として源泉税の還付が受けられます。)。損益通算や損失の繰越控除もできます。
また、申告しなくても合計所得金額や総所得金額等には含まれますので扶養親族の判定や住宅ローン控除適用の際には注意を要します。
一方、住民税では特別徴収され、課税関係が終了します。したがって、損益通算や損失の繰越控除、所得控除の額を控除することはできません。また、合計所得金額や総所得金額等の合計額にも含まれません(地法50の2、328)。
【問9】
平成20年に金地金300グラムを90万円で購入し、令和3年に210万円で売却した場合の所得区分はどうなりますか、また、所得金額等はいくらですか。
【答】
金地金の譲渡による所得は総合課税の譲渡所得となります。
所得金額は、次のとおり算出します。
収入金額210万円-取得価額90万円-特別控除50万円=所得金額70万円
他に所得がなければ、5年超所有の譲渡所得の課税標準、合計所得金額は
70万円×1/2=35万円となります。
ちなみに、譲渡対価の額が200万円を超える場合、税務署へ支払調書が提出されます。
【問10】
コロナ関連の医療費控除はどのようになっていますか。
【答】
「新型コロナウィルス感染症に関連する税務上の取扱い関係」(国税庁H.Pより)にて解説しています。以下を参照ください。
問12-1
マスク購入費用の医療費控除の適用について〔令和2年10月23日追加〕
私は、新型コロナウイルス感染症を予防するために、マスクを購入しましたが、この購入費用は、確定申告において医療費控除の対象となりますか。
〇 ご質問のマスクについては、病気の感染予防を目的に着用するものであり、その購入費用はこれら のいずれの費用にも該当しないため、医療費控除の対象となりません(所得税法73条2項、所得税法施行令207条1項)。
※ 健康維持を目的とするビタミン剤の購入費用など病気の予防のための費用も医療費控除の対象となりません。
問12-2
PCR検査費用の医療費控除の適用について〔令和2年10月23日追加〕
私は、先日、新型コロナウイルス感染症のPCR検査を受けましたが、この検査費用は確定申告において医療費控除の対象となりますか。
【 :医師等の判断によりPCR検査を受けた場合】
〇 新型コロナウイルス感染症にかかっている疑いのある方に対して行うPCR検査など、医師等の判断により受けたPCR検査の検査費用は、上記の費用に該当するため、医療費控除の対象となります。
〇 ただし、医療費控除の対象となる金額は、自己負担部分に限りますので、公費負担により行われる部分の金額については、医療費控除の対象とはなりません。(所得税法73条2項、所得税法施行令207条1項)
【 :上記 以外の場合(自己の判断によりPCR検査を受けた場合)】
〇 単に感染していないことを明らかにする目的で受けるPCR検査など、自己の判断により受けたPCR検査の検査費用は、上記のいずれの費用にも該当しないため、医療費控除の対象となりません。
〇 ただし、PCR検査の結果、「陽性」であることが判明し、引き続き治療を行った場合には、その検査は、治療に先立って行われる診察と同様に考えることができますので、その場合の検査費用については、医療費控除の対象となります(所得税基本通達73-4参照)。
※ 医療費控除の適用を受ける場合は、医療費の領収書から「医療費控除の明細書」を作成し、確定申告書に添付してください。
医療保険者から交付を受けた医療費通知がある場合は、医療費通知を添付することによって「医療費控除の明細書」の記載を簡略化することができます。
なお、「医療費控除の明細書」の記載内容を確認するため、確定申告期限等から5年を経過する日までの間、医療費の領収書(医療費通知を添付したものを除きます。)の提示又は提出を求める場合があります。
問12-3
オンライン診療に係る諸費用の医療費控除の適用について〔令和2年10月23日追加〕
私が通院している医療機関では、新型コロナウイルス感染症の感染防止のため、オンライン診療を導入しています。
このオンライン診療においては、自宅から医師の治療が受けられるのはもちろん、診療により処方された医薬品については、医療機関から私が希望した薬局に処方箋情報が送付され、その薬局から自宅への配送もできる仕組みとなっています。
オンライン診療は大変便利ですが、この仕組みを利用するためには、以下のとおり、オンライン診療料に係る費用のほか、システムの利用料の支払が必要となりますが、これらの支出は医療費控除の対象となりますか。
オンライン診療料
オンラインシステム利用料
処方された医薬品の購入費用
処方された医薬品の配送料
〇 ご質問のオンライン診療に係る費用については、それぞれ次のとおりとなります。
オンライン診療料
オンライン診療料のうち、医師等による診療や治療のために支払った費用については、医療費控除の対象となります(所得税法73条2項、所得税法施行令207条1項)。
オンラインシステム利用料
医師等による診療や治療を受けるために支払ったオンラインシステム利用料については、オンライン診療に直接必要な費用に該当しますので、医療費控除の対象となります(所得税基本通達73-3参照)。
処方された医薬品の購入費用
処方された医薬品の購入費用が、治療や療養に必要な医薬品の購入費用に該当する場合は、医療費控除の対象となります(所得税法73条2項、所得税法施行令207条1項2号)。
処方された医薬品の配送料
医薬品の配送料については、治療又は療養に必要な医薬品の購入費用に該当しませんので、医療費控除の対象となりません。
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