十六 所得控除
1 医療費控除
⑴ 添付書類
問 医療費控除を受ける際の添付書類の変更について
答 平成29年分以降の確定申告書を平成30年1月1日以降に提出する場合、領収書の添付又は提示に代えて、医療費の明細書又は各保険者からの医療費通知を添付しなければならないこととされた(所法120④、所規47の2⑧⑨)。
★⑵ 医療費控除(補てん金)
問 癌と宣告されたことを保険事故として支給される保険金は、医療費控除に係る補てん金の額となるのか。
答 死亡したこと、重度障害になったことを基因として支払われる保険金は、医療費の補てんを目的とする保険金に当たらないため、医療費から差し引く必要はない(所基通73-8、73-9)。
【参考】
○医療費から控除するもの
支給先等 | 支給目的 | 種類 |
社会保険、共済、国民健康保険 | 医療費の支出事由を給付原因として支給 | 療養費、家族療養費、出産育児一時金、家族出産一時金、高額療養費 |
損害保険契約、生命保険契約等 | 医療費の補てんを目的として支払われる | 傷害費用保険金、医療保険金、入院費保険金等 |
○医療費から控除しないもの
支給先等 | 支給目的 | 種類 |
社会保険、共済、国民健康保険 | 休業補償的なもの | 傷病手当金、出産手当金 |
損害保険契約、生命保険契約等 | 死亡したこと、重度障害になったことで支払われるもの | 死亡保険金、高度障害保険金 |
★⑶ 「医療費控除の明細書」の書き方
問 次の設例の場合、「医療費控除の明細書」の記入方法について
設例 本人の所得金額 500万円
浦和一郎(本人) ○○病院 入院費 20万円 入院給付金25万円
次郎(長男・生計一) △△病院 入院費 30万円 入院給付金15万円(令和3年受取予定)
よしこ(妻) ××歯科 インプラント治療 40万円
答 次のとおり
○令和2年分医療費控除の明細書【内訳書】
⑴医療を受けた方の氏名 | ⑵病院・薬局などの支払先の名称 | ⑶支払った医療費の額 | ⑷ ⑶のうち生命保険や社会保険などで補てんされる金額 |
浦和一郎 | ○○病院 | 200,000 | 200,000 |
浦和次郎 | △△病院 | 300,000 | 150,000 |
浦和よしこ | ××歯科 | 400,000 |
⑷ 医療費控除(セルフメディケーション)
問 セルフメディケーション税制を選択して申告したが、後日従来の医療費控除を選択、更正の請求書ができるか。
答 セルフメディケーション税制は、医療費控除の特例であり、申告の際に従来の医療費控除との選択適用となる。したがって、重複適用や、一度選択した控除を更正の請求や修正申告において変更することはできない(措法41の17の2)。
2 社会保険料控除(介護保険料、後期高齢者保険料)
問 控除対象配偶者である妻の年金から差し引かれた介護保険料又は後期高齢者医療保険料を夫の社会保険料控除とすることができるか。
答 社会保険料控除は、「居住者が…支払った場合又は給与から控除される場合」控除できる旨の規定となっていることから、妻の年金から差し引かれた介護保険料又は後期高齢者医療保険料を夫の社会保険料控除とすることはできない(所法74①)。なお、後期高齢者医療保険料については、妻の後期高齢者医療保険料を夫の口座から振替により支払うことを選択できることになっていることから、その選択をして夫の口座から振替により支払った場合には、夫の社会保険料控除の計算に含めることができる。
(注)妻の介護保険料が特別徴収(年金から天引き)されている場合は、本人の申し出により、特別徴収から普通徴収(現金納付又は口座振替)への変更はできないため、妻の介護保険料を夫の口座から振替により、支払うことはできない。ただし、妻の介護保険料が普通徴収されている場合、市区町村等へ一定の手続きをすることにより、妻の介護保険料を夫の口座から振替により支払うことができる。
3 寄附金控除
⑴ 入学寄附金
問 いわゆる入学寄附金は寄附金控除の対象となるのか。
答 入学1年目の年末までに支払った学校に対する寄附は、原則として寄附金控除の対象とならない(所法78②、所基通78-2)。
⑵ 宗教法人に対する寄附
問 宗教法人に対する寄附は寄附金控除の対象となるのか。
答 宗教法人に対する寄附は、国宝、重要文化財の保護の観点等から財務大臣が指定するものを除き、寄附金控除の対象とならない(所法78②二)。なお、指定された寄附金は財務大臣により告示されることになる(所令216②)ので、官報等により確認ができる。
⑶ 税額控除と寄附金控除
問 公益社団法人等に対して寄附を複数行った場合に、一部を税額控除とし、残りを寄附金控除の対象とすることはできるのか。
答 公益社団法人等に対する寄附について、所得控除又は税額控除を選択する場合には、その全てについて、いずれか一方を選択しなければならない(措法41の18の3-1)。
★⑷ ふるさと納税
問 課税所得金額500万円の所得者が、102,000円のふるさと納税をした場合の節税額と申告書への記載方法
○ふるさと納税控除額
税額 | 対象額 | 率 | 控除額 |
所得税 | 102,000-2,000=100,000 | 20.42% | 20,420円 |
住民税所得割額 | 102,000-2,000=100,000 | 10% | 10,000円 |
住民税特例控除額 | 102,000-2,000=100,000 | 69.58% | 69,580円 |
合計 | 100% | 100,000円 |
○ 住民税特例控除の割合
(人的控除差調整額控除後>0)
課税総所得金額 | 特例控除率 |
195万円以下 | 84.895% |
330万円以下 | 79.79% |
695万円以下 | 69.58% |
900万円以下 | 66.517% |
1800万円以下 | 56.307% |
4000万円以下 | 49.16% |
4000万円超 | 44.055% |
(注)特例控除額は所得割額の20%が限度
限度額の判定(500万円×10%×20%=10万円>69,580)
申告書(第二表)
○寄附金控除に関する事項(㉘)
寄附先の名称 | ○○市 | 寄附金 | 102,000 |
○住民税・事業税に関する事項
都道府県・市町村への寄附(特例控除対象) | 共同募金、日赤その他の寄附 | 都道府県条例指定寄附 | 市町村条例指定寄附 |
102,000 | – | – | – |
4 障害者控除
⑴ 要介護認定
問 介護保険法により要介護認定を受けたことを理由に、障害者控除を適用できるのか。
答 要介護認定を受けたことのみで、障害者控除の対象とはならない。ただし、障害の程度が障害者に準ずるものとして、市町村長等*から認定を受けている者(「障害者控除対象者認定書」を交付されている者)は適用がある(所令10①七)。
*市町村長等とは、市町村長又は特別区の区長をいうが、社会福祉事務所が老人福祉法第5条の4第2項各号に掲げる業務を行っている場合には、社会福祉事務所長を指す。
⑵ 年少扶養親族の場合
問 年少扶養親族(扶養親族のうち、16歳未満の者をいう。)については、(特別)障害者控除が適用できないのか。
答 障害者控除の規定は、「居住者の同一生計配偶者又は扶養親族が障害者である場合」と規定されているので、16歳未満の扶養親族(扶養控除の適用のある控除対象扶養親族には該当しない。)が(特別)障害者に該当する場合には障害者控除の適用がある(所法79)。
⑶ 成年被後見人
問 成年被後見人は、障害者控除の対象となる特別障害者には該当しないのか。
答 成年被後見人は、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状況にある者」に該当し、障害者控除の対象となる特別障害者に該当する(国税庁HP平24.8.31文書回答事例)。
★⑷ 配偶者特別控除と障害者控除
問 配偶者特別控除の対象となる配偶者が、身体障害者である場合、障害者控除の適用はあるのか。
答 障害者控除の対象となるのは「同一生計配偶者」であり、配偶者特別控除の対象となる配偶者はこれに当たらないため、障害者控除の適用はない(所法79②③)。なお、配偶者自身は所得税の計算上、障害者控除の適用はある。
5 配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除
⑴ 配偶者特別控除の適用範囲
問 配偶者特別控除の所得基準
答 平成30年分の所得税から配偶者特別控除の対象となる配偶者の合計所得金額が、38万円超123万円以下となった。平成16年分から平成29年分までは、38万円超76万円未満である。いずれも合計所得金額に応じて逓減する。
⑵ 所得制限について(分離譲渡所得がある場合)
問 分離譲渡所得の金額がある場合の所得制限はどのように算定するのか。
答 同一生計配偶者や扶養親族の判定の際の合計所得金額は、分離譲渡所得がある場合特別控除前で算定する(措法31①③、32①④、所基通2-41(注))。
⑶ 所得制限について(純損失がある場合)
問 純損失(雑損失)の繰越控除がある場合の所得制限はどのように算定するのか。
答 純損失(雑損失)の繰越控除がある場合には、合計所得金額を繰越控除前で算定する(所法2①三十ロ、三十三)。
⑷ 扶養親族所属の変更
問 確定申告書において、控除対象扶養親族として申告していた者を、更正の請求や修正申告によって、別の納税者の控除対象扶養親族に変更することができるか。
答 二以上の居住者の扶養親族に該当する場合の扶養親族の所属は、①予定納税の減額申請書②確定申告書③扶養控除等申告書等に記載されたところによることから、その後の更正の請求や修正申告によって扶養親族の所属を変更することはできない(所令219①、所基通85-2)。
★⑸ 同一の者が配偶者控除と扶養控除の適用
問 年の中途で死亡した父親の準確定申告において配偶者控除の適用を受けた母親について父親が死亡した後においては子が扶養している場合には、扶養控除の適用はできないのか。
答 父親の準確定申告における同一生計配偶者の該当の有無については、死亡日の現況で判定する。子の申告において、控除対象扶養親族の該当の有無は12月31日の現況により判定する(所法85③)。したがって、母親は父親の配偶者控除の適用を受けたうえ、子は母親を控除対象扶養親族として扶養控除の適用も受けることができる。
⑹国外居住親族に係る送金関係書類
問 扶養控除の適用を受けようとする国外居住親族が複数おり、送金を代表者にまとめて行っている場合、その送金証明書を国外居住親族全員分の送金関係書類として取り扱うことができるか。
答 国外居住親族について扶養控除を適用する場合に添付する送金関係書類は、国外居住親族の生活費又は教育費に充てるための支払を、必要の都度、各人に行ったことを明らかにすることが必要である(所規47の2⑤、所基通120-8)。
6 ひとり親控除、寡婦控除
★⑴ 婚姻歴がない未婚の親
問 婚姻歴がない未婚の親は、ひとり親控除の適用があるのか。
答 「ひとり親」とは、現に婚姻していない者又は配偶者の生死が明らかでない一定の者をいい、婚姻歴の有無は問われない(所法2①三十一)。
★⑵ 寡婦控除
問 昨年まで寡婦控除の適用を受けていた者(夫と離婚した後、扶養親族があった者)が本年は扶養親族がいなくなった場合
答 扶養親族がいない者で寡婦控除が適用されるのは、夫と死別又は夫が生死不明の場合に限られているので、寡婦控除の適用はない(所法2①三十)。
★⑶ 合計所得金額が500万円超の場合
問 合計所得金額が500万円超の場合のひとり親控除、寡婦控除の適用
答 ひとり親控除、寡婦控除(令和2年分以降)については、所得者の合計所得金額が500万円以下であることが適用要件とされている(所法2①三十、三十一)。なお、令和元年分以前は、合計所得金額が500万円超であっても、離婚又は死別した場合、扶養親族や総所得金額等が38万円以下の生計を一にする子がいる場合には、寡婦控除の適用が受けることができる。
7 所得控除の計算順序
問 退職所得を有する者が、各所得控除の合計金額が総所得金額よりも多額であるため、総所得金額から差し引きき切れない場合
答 所得控除は、総所得金額、山林所得金額又は退職所得金額から順次控除する(所法87②)。したがって、所得控除の合計額が総所得金額よりも多額であり、かつ、退職所得を有する場合には、源泉徴収で申告不要の退職所得を申告することで、総所得金額から差し引ききれなかった所得控除の額を退職所得から差し引きすることができる。
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