確定申告に当たり注意すべき事項(所得税)第2回

九 給与所得
1 ストックオプション等の所得区分
問 外国親会社から日本子会社の従業員等に付与されたストックオプションの権利行使に係る経済的利益や、リストリクテッドストック(譲渡制限付株式)の譲渡制限解除による株式所得に係る利益の所得区分

答 ストックオプションの権利行使に係る経済的利益やリストリクテッドストックの譲渡制限解除による株式取得の利益に係る所得は、原則として給与所得となる(所法28、36、所令84、所基通23~35共-6)。

2 ストックオプションの収入金額
問 外国親会社から日本子会社の従業員等に付与されたストックオプションの権利行使に係る経済的利益について給与所得の金額を計算する場合、証券会社等に支払った取引手数料は収入金額から控除できるか。

答 発行法人から付与されたその新株予約権等の行使に係る経済的利益については、その新株予約権等の行使に基づいて取得する株式の行使日における価額から、その新株予約権等の行使に係る権利行使価額(新株予約権の取得価額に行使に際し払い込むべき額を加算した金額)を控除した金額とされている。したがって、権利行使のために証券会社等に支払った手数料を差し引きことはできない(所法36②、所令84②)。なお、株式を売却した際には、譲渡所得の金額の計算上、取得費として総収入金額から控除する。

★3 共働き世帯の所得金額調整控除
問 共働き世帯の場合、所得調整控除は夫婦どちらかで適用することになるのか。

答 夫婦ともに給与等の収入金額が850万円を超えており、夫婦間に年齢23歳未満の扶養親族である子がいるような場合には、その夫婦双方がこの控除の適用を受けることができる。

★4 16歳未満の扶養親族がいる場合の所得金額調整控除
問 扶養親族に16歳未満の者しかいない場合には所得金額調整控除の適用はないのか。

答 「控除対象扶養親族」と異なり「扶養親族」には16歳未満の者も含まれるため、給与等の収入金額が850万円を超えており、16歳未満の扶養親族がいれば所得金額調整控除の適用を受けることができる。

十 退職所得
1 退職所得の収入計上時期
問 退職した翌年に退職金の支給を受けた場合の収入計上時期

答 退職所得の収入金額は、原則としてその支給の起因となった退職日による。ただし、会社役員等の場合で、その支給について株主総会等の決議を要するものについては、その決議のあった日とされる(所基通36-10)。

★2 退職所得に係る住民税の取扱
問 退職所得の住民税における課税の取扱はどのようなものか。

答 特別徴収で住民税が差し引かれ課税関係が終了する。損益通算や純損失の繰越控除、所得控除の額を控除することはできない。また、住民税の場合についてだけ合計所得金額や総所得金額等の合計額には含まれない(地法50の2、328)。

十一 譲渡所得
1 株式の譲渡に際し支払った管理費の扱い
問 株式等に係る譲渡所得等の所得区分が譲渡所得である場合に、金融商品取引業者に支払った管理費は収入から控除できるか。

答 株式等に係る譲渡所得等の所得区分が譲渡所得である場合の所得金額の計算は、総収入金額から所得の基因となった株式等の取得費及びその株式等の譲渡に要した費用の額、その年中に支払うべきその資産を取得するために要した負債の利子の合計額を控除することとされており、管理費はこの譲渡に要した費用に当たらないため収入金額から控除することはできない(所法33③、措法37の10⑥三、37の11⑥)。

2 贈与時に負担した名義書換料
問 贈与により取得したゴルフ会員権に係る譲渡所得の計算上、贈与時に負担した名義書換料は必要経費となるのか。

答 贈与、相続又は遺贈により譲渡所得の基因となる資産を取得した場合において、その資産を取得するために通常必要と認められる費用を支出しているときには、各種所得の金額の計算上必要経費に算入された登録免許税、不動産取得税等を除き、当該資産の取得費に算入できる(所基通60-2)。

3 譲渡所得における消費税の取扱い
問 消費税の課税事業者がその事業について全て税抜経理で処理を行っている場合、事業用の店舗を売却した時の譲渡所得の計算はどのようにするのか。

答 消費税の課税事業者が店舗等を譲渡した場合の譲渡所得の金額の計算は、次のとおり、その方の事業所得等に係る経理方式と同一の経理方式により計算する(平元.3.29直所3-8「2(注)2」)。
① 税込経理方式を採用している方
税込価額で収入金額、取得費、譲渡費用を計算
② 税抜経理方式を採用している方
税抜価額で収入金額、取得費、譲渡費用を計算
③ 非事業者、免税業者
税込経理方式を採用している方と同じ

★4 金地金の売買
問 平成20年に金地金300グラムを90万円で購入し、令和2年に210万円で売却した場合の所得区分はどうなるのか、また、所得金額等はいくらとなるのか。

答 金地金の譲渡による所得は総合課税の譲渡所得となる。所得金額は収入金額210万円-取得価額90万円-特別控除50万円=所得金額70万円
他に所得がなければ、5年超所有の譲渡所得の課税標準、合計所得金額は
70万円×1/2=35万円となる。
ちなみに、譲渡対価の額が200万円を超える場合、税務署へ支払調書の提出がされる。

十二 一時所得
損害保険の満期保険金の所得区分
問 店舗に係る損害保険の満期保険金は事業所得となるのか。

答 損害保険契約に基づき受け取る満期保険金は、被保険物が事業用資産であっても一時所得とされる(所基通34-1⑷)。

十三 雑所得
1 遡及して受け取った国民年金
問 過去に遡及して国民年金の支払いを受けた場合の収入計上時期はいつか。

答 年金の収入計上時期は、その支給の基礎となった法令等により定められた支給日であるため、前年分以前の期間に対応する年金が一括して支給されても、年分ごとに区分して収入金額を計算する(所基通36-14⑴)。

2 FX取引
問 店頭取引の外国為替証拠金取引(FX)についての課税関係

答 FXの差金等決済により生じた差益の課税関係は、店頭取引と取引所取引(金融商品取引所の開設する金融商品市場で行われる取引)のいずれの場合も、申告分離課税の「先物取引に係る雑所得等」として、所得税15%(地方税5%)の税率で課税される(措法41の14①)。
なお、損益金額については、支払調書として税務署に提出される。

十四 損益通算等
1 一時所得や総合譲渡所得との損益通算
問 事業所得の赤字と一時所得又は総合長期譲渡所得を通算する場合の注意事項

答 一時所得又は総合長期譲渡所得と通算する場合は、50万円の特別控除後で、1/2を乗ずる前の金額と通算する(所法69①、所令198三、所法22②)。

2 土地等の取得に要した借入金利子の取扱い
問 事業的規模の不動産所得者の場合、土地等の取得に要した借入金の利子の取扱い

答 土地等の取得に要した借入金の利子から生じた損失については、不動産の貸付けを事業的規模で行っているか否かに関わらず、不動産所得に係る損益通算の特例が適用される。したがって、不動産所得が赤字の場合、損益通算の対象とはならない(措法41の4)。

3 居住用財産の買換え等の所得金額要件
問 居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算の特例(措法41の5)と特定居住用財産の譲渡損失の損益通算の特例(措法41の5の2)の適用にあたり、合計所得金額が3000万円を超えることになった場合

答 居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算の特例(措法41の5)と特定居住用財産の譲渡損失の損益通算の特例(措法41の5の2)の適用にあたっては、所得金額の要件はない。しかし、居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除の特例と特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除の特例を適用するにあたっては、合計所得金額が3000万円を超える年は適用ができない(措法41の5④ただし書き、41の5の2④ただし書き)。

4 非居住者である役員の給与と不動産所得
問 確定申告において、非居住者である内国法人の役員が、役員給与と事業的規模(恒久的施設)の不動産所得に係る損失を損益通算はできるのか。

答 平成29年分以降、恒久的施設(PE)に帰属しない所得は、源泉分離課税により完結することとなった。そのため、非居住者の役員給与は、PEに帰属しない所得であることから、総合課税の対象とはならず、不動産所得に係る損失と損益通算することはできなくなった(所法164)。

十五 純損失の繰越控除・繰戻し
1 期限後申告での繰越控除
問 純損失が生じた年において期限後申告を提出している場合、純損失の繰越控除の適用はあるのか。

答 損失発生年の期限内申告は適用要件ではなく(平成23年分以降)、純損失が生じた年において期限後申告をしている場合であっても、その翌年以降純損失の繰越控除は適用できる(所法70④)。

2 純損失の発生年の翌年以後白色申告の場合
問 純損失の繰越控除は、純損失が生じた翌年以後も青色申告書を提出する必要があるのか。

答 繰越控除の適用年において青色申告であることは要件となっていないことから、例えば、純損失が生じた年に青色申告者が法人成し、その年の翌年以後白色申告者(給与所得者)となった場合であっても、純損失の繰越控除は適用することができる(所法70④)。

3 純損失の一部繰戻
問 純損失について繰戻し還付請求をする場合、一部繰戻はできるのか。

答 純損失は、その全部を繰り戻さないで、一部を繰り戻し、残りをその純損失が生じた年の翌年以降3年間に繰り越すことができる(所法70、140①二)。

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