非上場株式等についての贈与税の納税猶予の特例 ~贈与の時期について~

 《質問》

 特例事業承継税制についてお尋ねします。製造業の会社で令和2年2月28日に先代社長が退任し、息子が新代表に就任しました。先代社長は代表とともに取締役も退任し、息子は以前より取締役に就任していました。令和3年度に先代社長の全株の贈与を予定し、特例承継計画を提出したいと考えています。この場合、代表者の変更と株の贈与が同じ年度でなくても大丈夫でしょうか。また、代表者の変更が令和2年に行った場合、株の贈与はいつまでであれば大丈夫でしょうか。
 また、前代表者とともに前代表者の配偶者も株を所持しているのですが、この株については同じ時期に贈与をしなければ特例の適用はできないこととなりますか、よろしくお願いします。

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個人所有株式の発行法人への交換譲渡

《質問》

 ㈱T(以下「T社という」)の旧専務取締役B(現在社員ではない)は、将来的に自己の保有するT社株式とT社の土地建物を交換したいと考えており、T社もそれに合意しています。

T社株主
 A(取締役会長) 6,000株
 B(——-)          5,000株 Aの弟
 C(代表取締役)     500株 Aの姉
 D(取締役)          1,000株 Aの子
 E(取締役)          1,000株 Aの子

 この場合、BとT社はその株式の交換につき、どのような課税関係が生じるか・・・なのですが。

(Bの課税関係)
 Bは自己の有価証券をその発行法人T社に売却し、T社はその株式を自己株式として取得することになるので、その対価の額(土地建物の時価)のうち資本等の額に対応する部分は譲渡所得、資本等の額以外の金額に対応する部分は配当所得(みなし配当)となる。
(T社の課税関係)
 自己株式の取得は資本取引となるので、原則的には株式の買手である法人側T社では課税は生じない。
 ただ株式の時価と土地建物の時価が相違するはずなので、

株式の時価>土地建物の時価のケース
(Bの取扱い)
 土地建物の時価が株式の時価の2分の1未満の価額だと、株式の時価で譲渡したものとみなされ、譲渡所得・配当所得の計算を行う。
(T社の取扱い)
 資本等取引は、株式の時価でT社の譲渡株式に対応する資本金等の額及び利益積立金額を減少させ、株式と土地建物の時価との差額はBから贈与(受贈益)を受けたものとして、法人税等が課税される。

  現預金     /土地建物簿価
          /固定資産売却益

  資本金等の額・利益積立金額/現預金
               /受贈益

 また、T社は同族会社であるため、Bからの低額譲渡によりT社の株式の価値が増加した場合には、その増加した部分については、Bから他の株主へ贈与したものとして贈与税が課税される可能性がある。

株式の時価<土地建物の時価のケ-ス
(Bの取扱い)
 時価の差額は、T社からBへの贈与となり、法人から個人への贈与なので、一時所得としてBに所得税等が課税される。
(T社の取扱い)
 資本等取引は株式の時価でT社の譲渡株式に対応する資本金等の額及び利益積立金額を減少させ、株式と土地建物の時価との差額はBに対する寄付金となる。

  現預金     /土地建物簿価
          /固定資産売却益

  資本金等の額・利益積立金額 /現預金
  寄附金          /

と考えますがいかがでしょうか?
 実行するとなるとかなりの税金が発生することになると思います。
 他に何か節税できるいい方法とかあれば、アドバイス宜しくお願い致します。

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取引相場のない株式の評価について

《前提》
建物X

・ 建物はX社が所有、他に賃貸している。
・ X社の株主は甲
・ 甲と乙は夫婦、丙はその子供
・ 甲、乙、丙とX社は、賃貸借契約(固定資産税の3倍相当の地代支払い)を締結 「無償返還の届出書」を提出している。

《質問》

① 甲から丙へX社株式を贈与する場合、純資産価額の計算上、計上すべき借地権の価額はどのように計算するのでしょうか。
② 当該贈与後、甲、乙、に相続があり、丙が当該土地を取得する場合の当該土地の評価方法(評価単位含む)を教えてください。
③ 仮に株主が甲と乙の場合、甲、乙から丙へX社株式を贈与する場合、純資産価額の計算上、計上すべき借地権の価額はどのように計算するのでしょうか。

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第三者間の株式売買における配当還元方式の適用について

《前提条件》

 事業会社の株式について。
 社長が株式の71%を保有しており、その他社長の親族外で29%保有している。
現在1株も保有していない取締役が、上記親族外株主より20%の株式を売買にて取得予定。
 なお、現在株式を保有している親族外株主と取得予定の取締役の間にも血縁関係等はない。
 その際に、配当還元方式にて算定した価格にて売買を行う。

《質問事項》

DCF法などと比較して低い価額で買い取ることとなりますが、課税上弊害が発生する可能性はありますか?

《当社の見解》

 第三者間での売買については、低額譲渡の問題等は無いため、配当還元方式による評価額で売買したとしても、弊害は発生しないと思われる。

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小規模宅地等の特例の適用の可否について:ケース4

キャプチャ342

《相続関係》
被相続人  X氏
                    同族会社a
相続人  妻  B氏  被相続人と同居(同族会社役員)
     長男 A氏  被相続人と同居(同族会社役員)
     長女 C氏         (同族会社従業員)
     二男 D氏         (同族会社役員)

《賃貸関係》
◆建物アに関しては,毎月25万円で同族会社に貸付をしている。
 (従来50万円で貸していたが,会社の状況が悪化したため、令和1年10月からは25万円に変更)
◆建物イに関しては,毎月40万円で同族会社に貸付をしている。
 1階部分(貸付部分)
 2階部分は、X氏とB氏が住んでいる。
 3階部分は、A氏の家族が住んでいる。
 生活は独立分離しており、お風呂なども2、3階それぞれにある。

《a法人の株主》
 代表はA氏
 令和2年8月決算
 X氏   2,533,000株
 B氏    117,000株
 A氏      350,000株
 合計   3,000,000株

《質問》

 今回の相続で,小規模宅地の特例が使えるのはどのパターンか、有利なものを
ご教示いただけますでしょうか。

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小規模宅地等の特例の適用の可否について:ケース3

キャプチャ340

《状況》

・被相続人X(母)と相続人A(子)が同じ建物内(戸建)で生活している。
・生活形態は、1FがX、2・3FがAであったが、入口や風呂は同じ。
 キッチンは別であり、生活も別々であった。
 電気料金などの支払は、IFがX、2・3FはAと別々に行っていた。
 財布は別の状態。
・被相続人Xは2019年7月頃より、施設に入所。 2020年11月に死亡。
・土地はXのものであるが(これから遺産分割協議書作成予定)、未登記のため亡くなった夫のものになっている。
・建物は、A名義。
・固定資産税は、土地はX、建物はAがそれぞれ支払っていた。

《質問》

 今回の相続において、土地をAが相続した場合、小規模宅地の特例は使えますでしょうか。

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小規模宅地等の特例の適用の可否について:ケース2

1 基本情報
 被相続人:父
 相続人:長男、次男(両者ともサラリーマンであり、被相続人とは生計別)
 被相続人が所有する土地の上に、被相続人名義の家屋が2棟(A.B)あります。
 2棟はそれぞれ固定資産税が課税され、また、1~2m離れて建設されており、渡り廊下でもつながっていません。なお、登記簿上はA棟(平屋/床面積110㎡/S48年築)が母屋として、B棟(2階建/床面積120㎡/H9年築)がその附属建物とし登記されています。
 被相続人は普段はA棟で生活を行い、相続人(長男・次男)はB棟で寝起きしていますが、B棟に風呂とキッチンがないためA棟に風呂に入りに行き、普段の食事はA棟で被相続人ととっていました。
 いわゆるB棟は子ども部屋とトイレがある家屋です。

2 居住していた者の判定について
 下記資料は、所得税の居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例の解説です。
※別添「全日本不動産協会HP」資料参照
(抜粋)
『3.2の判定基準による判定の実際
 2.の通達における「……日常生活の状況、その家屋への入居目的、その家屋の構造及び設備の状況その他の事情を総合勘案して判定」する場合、具体的にどのような事実に着目されるのでしょうか。
 そもそも「居住」とは、そこで日常生活を送って起居すること、寝起きすることですから、その家屋がそのために最低限必要な程度の大きさ・設備を備えていることが必要です。2.の通達でも、「その家屋の構造及び設備の状況」が考慮すべき点として言及されています。具体的には、その家屋に、台所、トイレ、浴室、居室ないし寝室が備わっていることが必須となります。』

 ここでは、総合勘案する際の設備要件として、具体的にはその家屋に、『台所、トイレ、浴室、居室ないし寝室』が備わっていることが必須と断言しています。
 B棟にあてはめると、離れは居住の用に値する家屋ではない、となります。
 具体的には、離れは、台所、浴室の必須の設備が備わっていません。
 それでは、彼らはどこに居住していたのか。生活の本拠はどこなのか。
 それは、風呂もキッチンもトイレも備えた居住用家屋、朝晩の食事や家族のだんらんを共にする母屋に居住していた。そこが、生活の本拠であったという結論を導きました。
 あくまで、離れの目的は、母家が居住用家屋の機能として必須の、『台所、トイレ、浴室、居室ないし寝室』のうち、兄弟が4人もいるので、母家では、寝室の機能を果たすスペースがありません。母家の居住用家屋の機能の補完として、寝室を確保することを目的とした、母家と2つ合わせて一の家屋という解釈です。
 母屋に居住していたのならば、相続人の長男・次男は父と同じ居住の用に供されていた一棟の建物に居住していた者に該当するという結論になります。

《質問》

 前提のように、相続人の長男・次男が相続するのであれば、小規模宅地の特例は適用されますでしょうか。

キャプチャ339

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小規模宅地等の特例の適用の可否について:ケース1

《質問》

 被相続人甲は下図のとおり甲所有の920㎡の土地の上にA家屋とB家屋を所有しています。
 A家屋には甲と甲の配偶者が居住しています。
 B家屋には甲の長男乙が居住しています。
 甲の死亡1週間後に甲の配偶者も亡くなりました。
 甲の相続人は配偶者と長男乙のみです。
 今回、甲の相続により乙は上記土地家屋を相続します。
 この場合、甲乙が生計一の場合、B宅地について小規模宅地の特例が適用できると思いますが如何でしょうか。
 A宅地については甲死亡時には甲の配偶者が生存していたので乙は家なき子とはならず、相続で取得したA宅地については小規模宅地の特例が適用できないと思いますが如何でしょうか。
 また、生計一の判断はどのような基準で判断すればよいでしょうか。
 ちなみに乙は個人で建設業を営み、父甲に専従者給与を支払っていました。
 また、上記土地については地積規模の大きな宅地として評価しても良いでしょうか。

キャプチャ334

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テニスコート敷地の評価及び小規模宅地の特例について

《質問》

 テニスコート及びクラブハウスの敷地について(図面参照)
 テニスコート及びクラブハウスはそれぞれ別の契約書にて、同族会社へ貸付を行い、同族会社がテニスクラブの運営を行っております。

[評価単位・評価方法]
 クラブハウスの敷地283㎡は宅地であり、テニスコートの敷地3281㎡は雑種地であるためそれぞれ別評価単位として評価します。
 クラブハウスの敷地は、家屋を同族会社へ賃貸しているため、貸家建付地とします。
(賃料が土地&建物の年間固定資産税の1.5倍ほどですが、そもそも賃貸借といえるのでしょうか?)
 テニスコート敷地は、貸し付けている雑種地であるが、その芝・防球ネット・照明設備などの賃貸している設備はすべて個人所有であるため、賃借権の控除は行いません。
 また、造成費の控除も行わないため、シンプルな自用地評価とします。
※不動産登記事務取扱手続準則69条(9)で「テニスコートについては、宅地に接続するものは宅地とし、その他は雑種地とする」と定められていますが、本件のテニスコート敷地は「宅地に接続するもの」には該当しないでしょうか?

[小規模宅地]
 クラブハウスの敷地及びテニスコート敷地のいずれも、400㎡まで特定同族会社事業用宅地等の適用ありとし、有利な方から適用します。
 それぞれ賃貸借と呼べるかがポイントかと思いますが、いかがでしょうか?
 平成29年3月3日の国税不服審判所の裁決で、固定資産税の半分以下でテニスコートを同族会社へ賃貸していたものは、実態は使用貸借とされていますが、本件は1.5倍ほどは取っているので問題ないでしょうか?ただし周辺相場よりは安い賃料であると思います。
 他にも考えうる論点などがあれば、ご教示ください。
 10億超の土地となり、税務調査が入ると想定しております。

テニスコート及びクラブハウス敷地

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最近資産税の相談が多く寄せられた事案についての資料を掲載します

【1】 換価遺言が行われた場合の課税関係について

国税庁ホームページより
換価遺言が行われた場合の課税関係について

【2】 事業用建物等・居住用建物の建築中又は買換え中に相続が開始した場合の小規模宅地等の適用

週刊税務通信(令和3年11月1日)より

解説相続・贈与   税理士 香取 稔氏
略歴  国税庁資産課税課課長補佐,世田谷税務署副署長,東京地方裁判所裁判所調査官,東京国税局課税第一部資産評価官,同局課税第一部機動課長,同局課税第一部資料調査第二課長,国税不服審判所総括国税審判官,高松国税不服審判所長を経て,現在税理士。

事業用建物等・居住用建物の建築中又は買換え中に相続が開始した場合の小規模宅地等の適用

《問》
 クライアントである高齢の甲は一人で自宅(A物件)に居住していますが、今後の生活資金等を確保するため、①A物件を取り壊し、新たに賃貸併用住宅(B物件)を建築する(①案)か、あるいは、②A物件を売却し、他の場所に自宅(C物件)と賃貸用住宅(D物件・新築で賃借人はいない。)を取得する(②案)ことを計画しています。
 甲が、①案においてA物件を取り壊した後(B物件の建築工事着手前)、あるいは、②案においてA物件の売買契約中に死亡した場合において、
(1)①案においてA物件の敷地について小規模宅地等の特例の適用がありますか。
(2)②案においてA物件の敷地について小規模宅地等の特例の適用がありますか。
(3)②案においてC物件及びD物件の敷地について小規模宅地等の特例の適用がありますか。
(4)①案のB物件(賃貸用部分)又は②案のD物件について貸家及び貸家建付地として減額評価することができますか。
(5)②案において甲の相続人がA物件の売買契約を相続税の申告期限までに解除した場合には、相続財産はA物件(土地・建物)として申告することができますか。

《答》
(1)①案においてA物件の敷地について小規模宅地等の特例の適用の可否
甲の相続開始の時において、同人が居住していたA物件は取り壊され、B物件の建築工事に着手されていないことから、その敷地について小規模宅地等の特例の適用はありません。

(2)②案においてA物件の敷地について小規模宅地等の特例の適用の可否
売買契約中に係るA物件については、相続財産は債権(売買残代金請求権)ですから、同物件の敷地について小規模宅地等の特例の適用はありません。

(3)②案においてC物件及びD物件の敷地について小規模宅地等の特例の適用の可否
C物件の敷地については、相続財産を同物件の土地建物とする申告をした場合には、同土地について一定の要件を満たす限り小規模宅地等の特例の適用があります。
一方、D物件の敷地については、甲が新たに貸付事業を開始するために取得するものですから、同敷地について小規模宅地等の特例の適用がありません。

(4)①案のB物件(賃貸用部分)又は②案のD物件について貸家及び貸家建付地として減額評価の可否
B物件(賃貸用部分)又はD物件は、相続開始日において賃貸借契約は締結されておらず、評価上の減額要素となる賃借人の各物件の建物に対する使用収益権及び同建物の敷地に対する敷地利用権は存在しませんから、それぞれの建物及び敷地は自用のものとして評価するのが相当と考えます。

(5)②案において甲の相続人がA物件の売買契約を相続税の申告期限までに解除した場合には、相続財産はA物件(土地・建物)として申告することの可否
ご質問のケースにおいて売買契約が如何なる理由により解除されるのか明らかではありませんが、その解除理由の次第によっては相続財産をA物件(土地・建物)として申告することができると解されます。

《解説》

1 事業用建物等・居住用建物の建築中等に相続が開始した場合の小規模宅地等の特例の適用に関する措置法通達の定めなど

(1)措置法通達の定め

①  措通69の4-5 《事業用建物等の建築中等に相続が開始した場合》においては、被相続人等の事業の用に供されている建物等の移転又は建替えのため当該建物等を取り壊し、又は譲渡し、 これらの建物等に代わるべき建物等 (被相続人又は被相続人の親族の所有に係るものに限る。)の建築中に、又は当該建物等の取得後被相続人等が事業の用に供する前に被相続人について相続が開始した場合で、当該相続開始直前において当該被相続人等の当該建物等に係る事業の準備行為の状況からみて当該建物等を速やかにその事業の用に供することが確実であったと認められるときは、当該建物等の敷地の用に供されていた宅地等は、事業用宅地等に該当するものとして取り扱うこととされています。

②  措通69の4-8 《居住用建物の建築中等に相続が開始した場合》においては、被相続人等の居住の用に供されると認められる建物(被相続人又は被相続人の親族の所有に係るものに限る。)の建築中に、又は当該建物の取得後被相続人等が居住の用に供する前に被相続人について相続が開始した場合には、当該建物の敷地の用に供されていた宅地等が居住用宅地等に当たるかどうか及び居住用宅地等の部分については、69の4-5に準じて取り扱うこととされています。ただし、この取扱いは、相続の開始の直前において被相続人等が 自己の居住の用に供している建物 (被相続人等の居住の用に供されると認められる建物の建築中等に限り一時的に居住の用に供していたにすぎないと認められる建物を除く。) を所有していなかった場合 に限り適用があるとされています。

(2)留意点

①  措通69の4-5 ・ 69の4-8 の取扱いを事業用建物等又は居住用建物の建築中に適用する場合には、相続開始時において事業用建物等又は居住用建物の敷地としての土地の使用が具体化ないし現実化していることが必要であり、そのためには 少なくともその土地上において現実に事業用建物等又は居住用建物の建築工事が着手されていることが必要 とされており、被相続人等の事業用建物等又は居住用建物の建築請負契約が締結されているだけでは足りないと解されています。

[参考:東京高裁平成9年2月26日判決]

○ 相続税法及び租税特別措置法等租税法規の適用は、租税法律主義の原則及び課税の公平の原則並びに迅速な課税処理という徴税技術上の観点から、相続開始の前後の事情を問わず、相続開始時の現況に基づき一義的な統一的、画一的な基準によって判断されるべきところ、本件のようなケースにまで本件特例を適用することになれば、結局相続開始時においては更地であったにもかかわらず、相続開始後に建築工事に着手した場合にまで本件特例の適用が拡張されることになり、仮に当該土地上に居住用建物を建築する予定があったとしても(そして、その着工予定時期等が相続開始時と近接していて右建築計画がいかに具体的で確実なものであったにしても)、相続税法が相続税の課税価格を相続開始時の現況により算定するとしている趣旨に反することになるのであって、前記のような一義的で、かつ統一的、画一的な租税法規の適用の必要の観点からしても、そのような特例の適用の拡張は相当でなく、控訴人らが小規模宅地等の特例の適用を受けられないこともやむを得ない。

②  措通69の4-5 の取扱いは、「被相続人等の事業の用に供されている建物等の移転又は建替えのため当該建物等を取り壊し、又は譲渡し、これらの建物等に代わるべき建物等(被相続人又は被相続人の親族の所有に係るものに限る。)の建築中に、又は当該建物等の取得後被相続人等が事業の用に供する前に被相続人について相続が開始した場合」に適用されることから、新規に事業を開始しようとするケースについては、その適用がありません。
 一方、 措通69の4-8 の取扱いは、 措通69の4-5 の取扱いにおいて定められている「これらの建物等に代わるべき建物等」という要件がないことから、初めて居住用建物を取得等して居住しようとするケースについてもその適用があります。

2 売買契約中の土地等又は建物等に係る相続税の財産・債務に関する取扱いと小規模宅地等の特例の適用関係

(1)売買契約中の土地等又は建物等に係る相続税の財産・債務に関する取扱い

 売買契約中の土地等又は建物等に係る相続税の課税に当たり、土地等又は建物等の売買契約締結後その土地等又は建物等の売主から買主への引渡し日(その土地等が売買について農地法3条《農地又は採草放牧地の権利移動の制限》1項若しくは5条《農地又は採草放牧地の転用のための権利移動の制限》1項本文の規定による許可又は同項7号の規定による届出を要する農地又は採草放牧地である場合には、その許可の日又はその届出の効力の生じた日後にその土地の所有権が売主から買主へ移転したと認められる場合を除き、その許可の日又は届出の効力の生じた日)前にその売主又は買主に相続が開始した場合には、その相続に係る相続税の課税上、その売主又は買主たる被相続人の相続人その他の者が、その売買契約に関し当該被相続人から相続等により取得した財産及び承継した債務については、その土地等又は建物等の所有権が売主から買主に移転しているかどうかを問わず、それぞれ次のように取り扱われています(平成3年1月11日付資産税課情報「売買契約中の土地等又は建物等に係る相続税の課税等について」)。

① 売主に相続が開始した場合には、相続又は遺贈により取得した財産は、その売買契約に基づく土地等又は建物等の譲渡の対価のうち相続開始時における未収入金(売買残代金請求権)

② 買主に相続が開始した場合には、相続又は遺贈により取得した財産は、その売買契約に基づく土地等又は建物等の引渡請求権等として、その財産取得者の負担すべき債務は、相続開始時における未払金
 ただし、買主に相続が開始した場合において、その土地等又は建物等を相続財産とする申告があった場合には、それを認める。
 この場合における当該土地等又は建物等の価額は、当該土地等について小規模宅地等の特例の適用がある場合を除き、財産評価基本通達により評価した価額(同通達6《この通達の定めにより難い場合の評価》の適用を排除するものではありません。)による。

(2)小規模宅地等の特例の適用関係

① 売主に相続が開始した場合には、相続財産は土地等又は建物等ではなく売買残代金請求権であることから、その土地等について小規模宅地等の特例の適用はありません。

② 買主に相続が開始した場合には、相続財産は土地等又は建物等とする申告が認められ、その建物等について 措通69の4-5 ・ 69の4-8 の取扱い、すなわち「当該建物等の取得後被相続人等が事業の用又は居住の用に供する前に被相続人について相続が開始した場合」に該当することから、その土地等について小規模宅地等の特例の適用があります。
 もっとも、被相続人の貸付事業が、相続開始の日まで3年を超えて引き続き特定貸付事業に該当しない場合には、当該売買契約中の土地等は「相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当することから、小規模宅地等の特例の適用はありません( 措通69の4-24の3 )。

(注)   措通69の4-24の3 《新たに貸付事業の用に供されたか否かの判定》の定めにより、貸家の建替えのケースについては3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等には当たりませんが、貸家の移転(買換え)のケースについては、「当該建物等の移転先の宅地等は移転前の宅地等とは異なることから、当該移転先の宅地等は相続開始前3年以内に新たに貸付け事業の用に供された宅地等に該当する」(大野隆太編「相続税・贈与税関係 租税特別措置法通達逐条解説」(大蔵財務協会)103頁)とされています。

3 貸家及び貸家建付地について減額評価する趣旨

 財産評価基本通達93 《貸家の評価》及び 同通達26 《貸家建付地の評価》は、貸家及びその敷地の用に供されている宅地について減額評価する旨定めています。
 これらの各定めの趣旨は、①借家権の目的となっている建物の賃借人は、一般にその建物に対する使用収益権を有するとともに、その敷地についても借家権に基づいて建物の利用の範囲内で敷地利用権を有しており、賃貸人は、自己使用の必要性等の正当の事由がある場合を除き、賃貸借契約の更新を拒絶したり、解約の申入れをしたりすることができないことから(借地借家法28)、借家権を消滅させるためには立退料の支払を要することになること、②借家人は、建物の引渡しを受けたときは、その後その建物について物権を取得した者に対し借家権の効力を対抗することができ(同法31)、建物に借家権を付着させたままで建物及びその敷地を譲渡する場合には、その譲受人は、建物及びその敷地の利用について制約を受けること等から、その建物及びその敷地の経済的価値が、借家権の目的となっていない建物やその敷地に比べて低くなることを考慮したことにあると解されます。
 このような評価通達の趣旨及び 相続税法22条 が相続により取得した財産の価額をその取得の時における時価によるものとしていることからすると、貸家及び貸家建付地として減額評価できるのは、課税時期において現に借家権の目的となっている建物及びその敷地の用に供されている宅地に限られると考えます。

(注)  敷地利用権について東京高裁昭和34年4月23日判決は、「元来住宅に使用するための家屋の賃貸借契約において、その家屋に居住し、これを使用するため必要な限度でその敷地の通常の方法による使用が随伴することは当然であって、この場合その敷地の占有使用につきことさらに賃貸人の同意を得る必要はない。然しながらその使用占有は飽迄も賃借家屋の使用占有に伴うもの、言い換えれば本来の目的たる家屋の使用占有する上において常識上当然とされる程度に限られるものと言わなければならない。」旨判示しています。

4 売買契約解除後の状態を相続税の申告に反映できる場合

 相続開始後に、被相続人(売主)が締結していた土地の売買契約を同人に係る相続税の申告期限までに相続人が解除していた場合の課税財産の種類が争われた訴訟において広島地裁平成23年9月28日判決は、「納税申告前(又は法定申告期限前)の解除については、国税通則法上、明示的な規定はないが、いわゆる後発的事由に基づく更正の請求においては、上記のとおり、解除権の行使による解除とそれ以外の解除が区別されて、後者についてはやむを得ない事情が要求されており、これは、恣意的な解除(合意解除など)による税負担の不当な軽減を防止する趣旨であると解されるところ、この趣旨は、納税申告前の解除についても妥当するものであるから、納税申告前(又は法定申告期限前)の解除についても、更正の請求の規定(同法23条2項3号、同法施行令6条1項2号)に準じて、当該契約が、①解除権の行使によって解除された場合、又は、②当該契約の成立後に生じたやむを得ない事情によって解除された場合に限り、課税関係に影響を及ぼすと解釈すべきである。」旨判示しています(東京地裁令和2年10月29日判決同趣旨)。
 そうすると、相続税の申告期限前に契約が法定解除又は約定解除され、かつ、その契約により生じた経済的成果を消滅させていた場合、あるいは当該申告期限前に契約が合意解除され、かつ、その契約により生じた経済的成果を消滅させていた場合において、その解除についてやむを得ない事情が認められるときには、その解除後の状態を相続税の申告に反映することが可能と解されます。
 なお、合意解除の場合の「やむを得ない事情」とは、法定の解除事由がある場合、事情の変更により契約内容に拘束力を認めるのが不当な場合、その他これに類する客観的な理由のある場合をいうものと解されており(最高裁平成10年1月27日判決)、租税負担の軽減目的などの主観的な理由に基づくものはこれに当たらないと解されています(東京地裁令和2年10月29日判決、最高裁平成18年2月23日判決)。

5 質疑への当てはめ

(1)①案においてA物件の敷地について小規模宅地等の特例の適用の可否

 措通69の4-8 の取扱いは、居住用建物の建築中にも適用されますが、上記1の(2)①のとおり、小規模宅地等の特例の適用を受けるためには、相続開始時において、少なくともその土地上において現実に居住用建物の建築工事が着手されていることが必要であると解されています。
 甲の相続開始の時において、同人が居住していたA物件は取り壊された状態、すなわちA物件は更地の状態にあり、B物件の建築工事に着手されていません。
 そうすると、 措通69の4-8 の取扱いの適用はないことから、A物件の敷地について小規模宅地等の特例の適用はありません。

(2)②案においてA物件の敷地について小規模宅地等の特例の適用の可否

土地等又は建物等の売買契約中に売主に相続が開始した場合における相続財産は、上記2の(1)①のとおり、その土地等又は建物等ではなく、その売買契約に基づく売買残代金請求権です。
 そうすると、売買契約中に係るA物件については、相続財産は債権(売買残代金請求権)ですから、同物件の敷地について小規模宅地等の特例の適用はありません(平成9年5月14日公表裁決)。

(3)②案においてC物件及びD物件の敷地について小規模宅地等の特例の適用の可否

 土地等又は建物等の売買契約中に買主に相続が開始した場合における相続財産は、上記2の(1)②のとおり、その売買契約に基づく土地等又は建物等の引渡請求権等ですが、その土地等又は建物等を相続財産とする申告があった場合には、それを認めるとともに、その土地等について小規模宅地等の特例の適用を容認しています。つまり、その土地等又は建物等を相続財産とする申告をした場合、 措通69の4-5 ・ 69の4-8 の取扱いにより、その土地等について小規模宅地等の特例の適用が認められるということです。
 ただし、 措通69の4-5 の取扱いは、新規に事業を開始するケースについては小規模宅地等の特例の適用がありません。
 そうすると、C物件の敷地については、相続財産を同物件の土地建物とする申告をした場合には、同土地について一定の要件を満たす限り小規模宅地等の特例の適用があります。
 一方、D物件の敷地については、甲が新たに貸付事業を開始するために取得するものですから、 措通69の4-5 の取扱いの適用はなく、同敷地について小規模宅地等の特例の適用がありません。

(4)①案のB物件(賃貸用部分)又は②案のD物件について貸家及び貸家建付地として減額評価の可否

 貸家及び貸家建付地として減額評価できるのは、上記3のとおり、課税時期において現に借家権の目的となっている建物及びその敷地の用に供されている宅地に限られます。
 そうすると、B物件(賃貸用部分)又はD物件は、相続開始日において賃貸借契約は締結されておらず、評価上の減額要素となる賃借人のそれぞれの建物に対する使用収益権及び同建物の敷地に対する敷地利用権は存在しませんから、それぞれの建物及び敷地は自用のものとして評価するのが相当と考えます(平成4年12月9日公表裁決)。

(5)②案において甲の相続人がA物件の売買契約を相続税の申告期限までに解除した場合には、相続財産はA物件(土地・建物)として申告することの可否

 土地等又は建物等に係る売買契約の解除後の状態を相続税の申告に反映できる場合とは、上記4のとおり、その申告期限前に当該売買契約が法定解除又は約定解除され、かつ、その契約により生じた経済的成果を消滅させていた場合、あるいは納税申告前に契約が合意解除され、かつ、その契約により生じた経済的成果を消滅させていた場合において、その解除についてやむを得ない事情が認められるときには、その解除後の状態を相続税の申告に反映することが可能と解されています。
 そうすると、ご質問のケースにおいて売買契約が如何なる理由により解除されるのか明らかではありませんが、その解除理由の次第によっては相続財産をA物件(土地・建物)として申告することができると解されます。