さくら税研では、今週から4回にわたり、個人の確定申告において誤りやすい事項のポイント解説をさせていただきます。
今回の解説は次のとおりです。
《目次》
【税法改正事項】
1 給与所得控除額引き下げ
2 セルフメディケーション税制の創設、添付書類の見直し
3 事業所得関係
⑴ 中小事業者が機械等を取得した場合の特別償却又は所得税額の特別控除制度(中小企業投資促進税制)の改正
⑵ 特定中小事業者が経営改善設備を取得した場合の特別償却又は所得税額の特別控除制度の改正
⑶ 特定中小企業者が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は所得税額の特別控除制度の創設
4 税額控除関係
⑴ 既存住宅のリフォームに係る特例措置の拡充
⑵ 省エネ改修の要件緩和
⑶ 住宅ローン控除の対象外となる勤務先からの借入金利率の緩和
5 届出書の提出先の簡略化
【誤りやすい事項】
1 金融所得課税
⑴ 平成28年から適用されている公社債・公社債投信等に対する課税関係の見直し概要
⑵ 配当所得等の申告に当たっての注意事項
⑶ 上場株式等に係る配当等と譲渡損失の損益通算
2 不動産所得・事業所得関連
⑴ 減価償却関係(相続により取得した減価償却資産の償却方法)
⑵ 青色申告特別控除について
⑶ 青色申告申請書の提出期限
《解説》
1⃣【改正された事項】
1 給与所得控除額引き下げ
給与所得控除上限額がさらに220万円に引き下げ
(平成26年度改正事項のうち、順次適用)
年収額 | 給与所得控除額 | |||
24年分以前 | 25年分~27年分 | 28年分 | 29年分~ | |
180万円以下 | 収入金額×40%
(65万円未満は65万円) |
同左 | 同左 | 同左 |
180万円超360万円以下 | 収入金額×30%+18万円 | 同左 | 同左 | 同左 |
360万円超660万円以下 | 収入金額×20%+54万円 | 同左 | 同左 | 同左 |
660万円超1000万円以下 | 収入金額×10%+120万円 | 同左 | 同左 | 同左 |
1000万円超1200万円以下 | 収入金額×5%+170万円 | 同左 | 同左 | 220万円 |
1200万円超1500万円以下 | 230万円 | |||
1500万円超 | 245万円 |
2 セルフメディケーション税制の創設、添付書類の見直し
⑴ 平成28年改正事項
現行の医療費控除との選択により、市販薬(スイッチOTC〔Over The Counter〕医薬品)を購入した場合に購入費用を所得控除とする制度が平成28年に創設(適用は29年1月1日から)。
控除額は、最高額が10万円で12,000円を超える額が控除額
当該医療費控除を受けるためには、セルフメディケーション〔自主服薬〕対象品である旨記載したレシート等領収書とともに健康の維持増進、疾病の予防への取組として『一定の取組』をすることが要件とされ、取組を行った書類を添付又は提示する必要あり(ただし、下記⑵の改正あった。)。
※『一定の取組』とは
インフルエンザの予防接種を受けた(領収書等を提出)、会社の定期健康診断を受診(結果通知書を提出)、市町村のがん検診を受診(領収書又は結果通知表を提出)等
⑵ 平成29年改正事項
医療費控除、セルフメディケーション税制の適用を受ける場合、従来の「医療費の領収書等」の添付又は提示に代えて「医療費控除の明細書」や「セルフメディケーション税制の明細書」を添付することとなった。ただし、領収書は確定申告期限等から5年間は税務署からの提示要求に備え、保存しておく必要あり。
セルフメディケーション税制での添付書類「健康維持増進等の取組」関係書類は申告書に添付又は提示が必要。
平成29年~31年分までの確定申告については、これまでどおり医療費の領収書の添付・提示でも可。また、医療保険者から交付を受けた医療費通知(健康保険組合等が発行する「医療費のお知らせ」)を添付すると明細書の記入を省略できる。
【参照:資料医療費控除の明細書】
https://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinkoku/shotoku/yoshiki02/pdf/ref1.pdf
3 事業所得関係
⑴ 中小事業者が機械等を取得した場合の特別償却又は所得税額の特別控除制度(中小企業投資促進税制)の改正
ア 特定生産性向上設備等について、即時償却と10%の税額控除との選択適用ができる制度の見直し(上乗せ措置の廃止等)が行われた上、適用期限が2年延長された。すなわち、一定の機械装置等を取得等した場合に取得価額の30%の特別償却又は7%の税額控除が選択適用できる(措法10の3①)。
イ 適用手続きは、特別償却の場合、青色申告決算書の「減価償却の計算」「㋬割増(特別)償却費」の欄に特別償却の額を、「摘要」欄に『特例(措法10の3)』と記入。
税額控除の場合、「中小事業者が機械等を取得した場合の所得税額の特別控除に関する明細書」を確定申告書に添付すること。
ウ 平成29年4月1日前に取得等をした特定生産性向上設備等については従前どおり。
【参照 中小企業投資促進税制】
http://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/2017/170905toushisokushinpanf.pdf
⑵ 特定中小事業者が経営改善設備を取得した場合の特別償却又は所得税額の特別控除制度の(商業・サービス業・農林水産業活性化税制)改正
ア 企業の活性化を図るため一定の要件を満たした経営改善設備(器具備品、建物附属設備)の取得を行った場合に取得価額の30%の特別償却又は7%の税額控除の選択適用ができる。
イ 制度そのものの改正はないが、税額控除については上記⑴と下記⑶の制度の税額控除措置と合計して適用年分の税額の20%相当額を限度とし、適用期限が2年延長された。
【参照 商業・サービス業・農林水産業活性化税制】
https://www.mirasapo.jp/finance/pdf/Q10.pdf
⑶ 特定中小企業者が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は所得税額の特別控除制度(中小企業経営強化税制)の創設
上記⑴の制度の上乗せ措置の廃止に伴い設けられた措置で、29年4月1日~31年3月31日までの期間内に一定の設備を取得し、指定事業に供した場合、即時償却又は取得価額の10%の税額控除を選択摘要することができる制度が創設された(措法10の5の3)。
【参照 税制措置・金融支援活用の手引き 中小企業庁】
http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kyoka/2017/170407zeiseikinyu.pdf
4 税額控除関係
⑴ 既存住宅のリフォームに係る特例措置の拡充
ア 住宅ローン関係
居住している住宅について、耐震・省エネリフォームと併せて一定の『耐久性向上改修工事』が「特定の増改築等に係る住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除」(措法41の3の2)の適用対象に追加された。
イ 自己資金関係
「既存住宅に係る特定の改修工事をした場合の所得税額の特別控除」(措法41の19の3)の適用対象に耐震改修工事又は省エネ改修工事と併せ行う一定の『耐久性向上改修工事』が加えられた。
⑵ 省エネ改修の要件緩和
従前居室の全ての窓に対して改修工事をすることが要件となっていたが、住宅全体の省エネ性能が改修により満たされれば税額控除の対象となった。
⑶ 住宅ローン控除の対象外となる勤務先からの借入金利率の緩和
住宅ローン控除の対象とならない勤務先からの借入金の利率が、1%未満から0.2%未満とされた。
【参照 長期優良住宅化リフォーム等の促進に向けた既存住宅のリフォームに係る特例措置の拡充】
http://www.mlit.go.jp/common/001154854.pdf
5 届出書の提出先の簡略化
これまで、「納税地の異動」等を行う場合、『届出書』を異動前と異動後の納税地を管轄する税務署にそれぞれ提出していたが、平成29年4月1日以降は次の提出先にだけ提出すればよいこととされた。
① 納税地の変更に関する届出書 ➡ 変更前の納税地の所轄税務署長(所法16)
② 納税地の異動に関する届出書 ➡ 異動前の納税地の所轄税務署長(所法20)
③ 個人事業の開業・廃業等届出書 ➡(納税地と事務所の所在地が異なる場合)納税地の税務署長(所法229、所規99)
④ 給与支払事務所等の移転届出書 ➡ 移転前の給与支払事務所等の所在地の所轄税務署長
2⃣【誤りやすい事項】
1 金融所得課税
⑴ 平成28年から適用されている公社債・公社債投信等に対する課税関係の見直しの概要
ア 特定公社債、公募公社債投信等の利子は、20.315%源泉徴収後、申告不要または申告分離課税を選択することができる。
譲渡損益については、従前非課税だったが、申告分離課税(税率20.315%)に改められた。
イ 特定公社債等については、特定口座での取扱いも可。したがって、源泉徴収あり特定口座で取引していれば、申告不要とすることができ、これらの口座間及び上場株式等に係る譲渡益との損益通算や繰越控除ができる。
ウ 一般個人投資家の投資対象とならない特定公社債以外の一般公社債及び私募公社債投信等については、一般株式等グループとして分類され、上場株式等グループとの間で損益通算は不可。
※ ○ 特定公社債は次のとおり
国債、地方債、外国国債、外国地方債、公募または上場されている公社債(証券会社・銀行が窓口で販売している公社債は概ね「特定公社債」となる。)。
○ 預貯金の利子等については、従前と同様源泉分離課税のままの取扱い。
公社債・公社債投資信託等に対する課税
平成27年以前 |
平成28年~ | ||
特定公社債・公募公社債投資信託 | 左記以外公社債・私募公社債投資信託 | ||
利子 | 利子所得・源泉分離課税(20.315%) | 20.315%【源泉徴収有】申告分離(申告不要とするも可) | 源泉分離課税(20.315%) |
譲渡益 | 非課税 | 20.315%【特定口座で源泉徴収なら申告不要可】申告分離 | 20.315%申告分離 |
損益通算・繰越控除 | 不可 | 可(特定公社債等利子・配当所得・譲渡所得との) | 不可(譲渡内通算可) |
特定口座での取扱い | 不可 | 可 | 不可 |
⑵ 配当所得等の申告に当たっての注意事項
ア 課税方法の変更
確定申告において、申告分離課税を選択した上場株式等の配当等を、更正の請求や修正申告において総合課税へ変更することはでない。例えば、申告分離課税を選択して確定申告をした場合には、その後において更正の請求や修正申告するときにおいても、申告分離課税を選択することになる(措通8の4-1)。
イ 申告方法
上場株式等の配当等を申告する場合には、その全額について総合課税又は申告分離課税のいずれかを選択することになっている(措法8の4②)。したがって、一部を総合課税に、残りを申告分離課税とする申告は認められていない。
ウ 所得税と住民税別々の申告方式を採ることの是非
例えば、次のケースの場合、住民税の納税通知書が送達する前であれば、所得税と異なる住民税の申告を別途行うことが認められている(地法税法313⑬)。
○ 上場株式等の配当所得について所得税は総合課税、住民税は申告不要制度(または申告分離課税)を選択することで住民税の税負担を抑える。
○ 所得税は申告分離課税で損益通算や繰越控除を利用、住民税は申告不要制度を選択し国民健康保険料等の増加を抑える。
【参照 練馬区 特別区民税・都民税申告書(上場株式等の所得に関する住民税申告不要等申出書)他の市区町村は、それぞれ対応が異なるので問い合わせが必要】http://www.city.nerima.tokyo.jp/kurashi/zei/oshirase/kazeihoshiki…/moushidesyo2.pdf
⑶ 上場株式等に係る配当等と譲渡損失の損益通算
ア 分離課税から総合課税への選択替え
○ 源泉徴収選択口座内で上場株式等の配当等と譲渡損失とが損益通算されている場合において、その譲渡損について確定申告をするときは、併せて配当等の申告も必要となる(措法37の11の6⑩)。その際配当等の申告について総合課税への選択替をすることができる。しかしながら、利子等については、申告分離が原則なので、総合課税の選択をすることはできない(措法8の4②)。
○ 源泉徴収選択口座の譲渡所得等の黒字の金額と同じ源泉徴収選択口座の配当等の金額のいずれかのみの申告をすることは可(源泉徴収選択口座内に配当所得と利子所得両方がある場合、配当所得のみ又は利子所得のみを抜き出して申告することはできない。)。
イ 複数の源泉徴収選択口座がある場合等の申告方法
○ 複数の源泉徴収選択口座の譲渡所得等の金額を申告するかどうかは、源泉徴収選択口座ごとに選択することができる(措法37の11の5①、措通37の11の5-2)。
○ 複数の源泉徴収選択口座で上場株式等の利子等又は配当等受領をしている場合において、それらを申告するときは、それぞれの源泉徴収選択口座(口座内の利子等と配当等の合計)ごとに申告不要制度の適用を選択することができる(措法37の11の6⑨)。
ウ 源泉徴収選択口座以外の利子等や配当等
申告方法については、1回に支払いを受ける利子等又は配当等ごとに選択ができる(措法8の5④)。
2 不動産所得・事業所得関連
⑴ 減価償却関係(相続により取得した減価償却資産の償却方法)
相続により資産を取得した場合、取得価額、帳簿価額、耐用年数は引き継ぐ旨の規定となっている(所法60①、所令126②)が、償却方法についての引継規定はないため、被相続人が旧定率法により償却していた減価償却資産を相続により取得した場合でも、その相続人は旧定率法を用いて減価償却費の計算をすることはできない。
個人の法定償却方法は定額法のため、新たに業務を開始した相続人が定率法を選択する場合には、償却方法の届出を新たに提出する必要がある(所令123①②)。
平成19年4月1日以降に取得した建物、平成28年4月1日以降取得した建物附属設備・構築物については、新定額法に限られる(所令123⑤、所基通49-1)。
⑵ 青色申告特別控除について
青色申告者が事業所得や不動産所得(事業的規模)で貸借対照表の提出他の条件を満たした場合、それぞれの所得の金額を算出するのに当たっては、青色申告特別控除(65万円)の適用があるが、当初申告が期限後申告の場合には、控除額が常に10万円となるので注意が必要。
⑶ 青色申告申請書の提出期限
ア 原則
○ 青色申告の承認を受けようとする場合、承認を受けようとする年の3月15日までに提出を要す。
○ 新規に事業を開始した場合、開業してから2か月以内に提出を要す。
※ 注意事項
既に不動産貸付業を行っているような場合は新規に事業を開始したことにならない。例えば、従前から不動産貸付業を行っている人が、平成30年5月に新規に小売店を開業予定している場合、平成30年分から青色申告をするのであれば、平成30年3月15日までに提出する必要があり(所法144)。
イ 相続により被相続人の業務を承継した場合(所基144-1)
○ 業務を承継した時から2か月以内に提出
○ 青色申告者である被相続人の業務を承継した場合は、準確定申告書の提出期限である死亡の日から4か月以内に提出
区分 | 青色申告承認申請書の提出期限 | |
1 | 原則 | 青色申告の承認を受けようとする年の3月15日 |
2 | 新規開業した場合(その年の1月16日以後に新規に業務を開始した場合) | 業務を開始した日から2か月以内 |
3 | 被相続人が白色申告者の場合(その年の1月16日以後に業務を承継した場合) | 業務を承継した日から2か月以内 |
4 | 被相続人が青色申告者の場合(死亡の日がその年の1月1日から8月31日) | 死亡の日から4か月以内 |
5 | 被相続人が青色申告者の場合(死亡の日がその年の9月1日から10月31日) | その年12月31日 |
6 | 被相続人が青色申告者の場合(死亡の日がその年の11月1日から12月31日) | 翌年2月15日 |
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