平成30年 確定申告直前誤りやすいポイント解説(所得税②)

今週の解説は次のとおりです。

《目次》
3 先物取引等に係る損失の申告を失念した場合の繰越控除
4 仮想通貨の取扱い
5 外国からの公的年金
 
⑴ 公的年金に係る雑所得の計算
 ⑵ 公的年金申告不要制度(収入400万円以下)
6 生命保険金等の課税関係
7  空き家に係る譲渡所得の特例《措法35条3項関係》(平成28年4月1日以降適用)
8 住宅ローン控除
 
⑴ 住宅借入金等特別控除は非居住者でも適用可
 ⑵ 特定取得の意義
 ⑶ 住宅取得等に係る特別控除を選択適用した効果
 ⑷ 父所有の建物に子が増改築をした場合
 ⑸ 繰上返済し償還期間が10年未満となった場合
 ⑹ 控除合計額計算の調整
 ⑺ 居住用財産を譲渡した場合の特別控除等の特例と住宅借入金等特別控除との選択について
 ⑻ 住宅耐震改修特別控除(措法41の19の2)について
9 所得控除関係
⑴ 「障害者控除対象者認定書」に基づき障害者控除の適用等について
 ⑵ 扶養控除の所属の変更
 ⑶ 複数年分の国民年金を一括で支払った場合の社会保険料控除
10 保険契約に関する支払調書の見直し
11 附帯税関係(加算税制度の見直し)

《解説》

3 先物取引等に係る損失の申告を失念した場合の繰越控除

 平成28年中に生じた先物取引に係る損失を、同年の確定申告に含めず申告していた場合でも、損失を繰り越す旨の更正の請求を行い、その後平成29年分の確定申告において、先物取引に係る所得金額(利益額)から繰越損失額を控除することは認められている(措通41の15-1)。ただし、平成29年分の確定申告を先に行った場合には、平成28年分の更正の請求は認められず、繰越控除はできない。

4 仮想通貨の取扱い

 仮想通貨を売却又は使用することにより生じる利益については、事業所得等の各種所得の基因となる行為に付随して生じる場合を除き、原則として雑所得に区分される。
【参照 国税庁ホームページ 個人課税課情報4号平成29年12月1日】。https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/joho-zeikaishaku/shotoku/…/01.pdf

5 外国からの公的年金

⑴ 公的年金に係る雑所得の計算
 雑所得を計算する際の公的年金等は、国内の公的年金だけでなく外国の法令に基づく保険や共済制度で日本の国民年金や厚生年金等に類するものも含まれ、公的年金を全て合計し公的年金控除の金額を算出の上、公的年金に係る雑所得の金額を算出する。

⑵ 公的年金申告不要制度(年金収入400万円以下)
 国外からの年金等公的年金等の一部でも源泉徴収の行われていない年金が含まれている場合には、確定申告不要制度の適用はない(所法121③)。

6 生命保険金等の課税関係

 交通事故や病気などで被保険者が死亡し、保険金受取人が死亡保険金を受け取った場合や満期で保険金を受け取った場合には、被保険者、保険料の負担者及び保険金受取人がだれであるかにより、所得税、相続税、贈与税のいずれかの課税の対象になる。
 身体の傷害に起因して支払いを受ける保険金等は、被保険者自身が身体に傷害を受け保険金等を受領する場合だけでなく、配偶者や一定の親族が受ける保険金等についても非課税としている(所法9①十七、所令30、183②、所基通9-20・9-21・34-1、相法3①一、5①、相基通3-17)。 

保険契約等関係者 保険事故等区分
保険負担者 被保険者 保険等受取人 傷害 死亡 満期
A A A 非課税 一時所得
A A B 非課税(親族)(注)
一時所得
相続税 贈与税
A B A 同上 一時所得 一時所得
A B B 非課税 贈与税
A B C 非課税(親族)(注)
一時所得
贈与税 贈与税
A1/2・C1/2 A B 同上 相続税・贈与税 贈与税

(注) 保険金等受取人が、被保険者の配偶者、直系血族又は生計を一にするその他の親族である場合に限る。

空き家に係る譲渡所得の特例《措法35条3項関係》(平成28年4月1日以降適用)

 適用要件の概要は次のとおり。このうち、下記⑦の『被相続人居住用家屋等確認書』の交付を受ける際には、家屋の取壊し時から譲渡時までの敷地の使用状況が分かる写真を提出する必要があり(家屋を取壊しの後敷地を売却する場合)、これに備え譲渡前から準備する必要があり注意を要す。
① 昭和56年5月31日以前に建築された家屋及びその敷地で相続開始の直前において被相続人の居住用に供されていたこと
② 相続開始直前において被相続人に同居者がいないこと
③ 譲渡対価の額が1億円以下であること
④ 相続の時から譲渡の時まで事業用、貸付用、居住用に供されていないこと
⑤ 相続の開始から3年を経過する年の12月31日までに譲渡すること
⑥ 家屋を取り壊さず売却する時は、その家屋が昭和56年6月1日以後の耐震基準に適合するよう修繕するものであること
⑦ 『被相続人居住用家屋等確認書』を被相続人の所在地市区町村から交付を受けること

【参照 空き家の譲渡所得の3000万円特別控除】 http://www.mlit.go.jp/common/001127709.pdf

8 住宅ローン控除等

⑴ 住宅借入金等特別控除は非居住者でも適用可
 平成28年4月1日以降適用対象者が居住者だけでなく非居住者でも適用可とされた。例えば①海外転勤で非居住者となっていた者が帰国後の住居の確保のため、前もって非居住者期間中に住宅を取得した後居住した場合②住宅ローン控除適用者が年の中途で海外勤務となっても家族が引き続き居住している場合等にも適用が可能となっている(措法41①他)。 

⑵ 特定取得の意義
 『特定取得』とは、住宅の取得等に含まれる消費税率が8%による場合のことを指し、個人間の売買契約において消費税額の表示がない場合には、『特定取得』には該当しない。特定取得に係る住宅とそれ以外の住宅についての住宅借入金等特別控除の控除額は、平成26年以降次のとおり。

取得の種類 年末残高の合計額(最高) 住宅借入金等特別控除額(最高額)
特定取得 一般取得 4000万円 40万円
認定長期優良住宅 5000万円 50万円
非特定取得 一般取得 2000万円 20万円
認定長期優良住宅 3000万円 30万円

⑶ 住宅取得等に係る特別控除を選択適用した効果
 確定申告において一旦選択適用した住宅取得等に係る特別控除は、その年分以降も変更することはできない。
 例えば、認定長期優良住宅を借入金で取得し、単年控除を選択した場合、後において住宅ローン控除(10年摘要)への変更をすることはできない(さくら税研フォーラム28年10月31日公開分参照)。

住宅ローン控除等概要 (28年1月~平成33年12月末までに居住等の場合)
区分 住宅ローンあり 自己資金(住宅ローン無)
一般住宅 新築・既存住宅 増改築 住宅借入金等特別控除 年末残高(4000万円限度)×1% 【10年控除 年最高40万円】措法41① 控除不足があれば、住民税の住宅ローン控除(最高13.65万円)
認定住宅 住宅借入金等特別控除 年末残高(5000万円限度)×1% 【10年控除 年最高50万円】措法41⑤ 控除不足があれば、住民税の住宅ローン控除(最高13.65万円) 選択摘要 認定住宅新築等特別控除 標準的な費用の額(43,800円×床面積㎡)×10% 【1年のみ控除・1年繰越可 65万円限度】 措法41の19の4
省エネ バリアフリー 多世帯 住宅借入金等特別控除 年末残高(4000万円限度)×1% 【10年控除 年最高40万円】措法41① 控除不足があれば、住民税の住宅ローン控除(最高13.65万円) 選択摘要 既存住宅特定改修特別控除(注) 標準的な工事費用又は改修工事費用×10% 【1年のみ控除 省エネ25万円(太陽光35万円)・多世帯25万円・バリアフリー20万円限度】 同一年中に省エネ、多世帯、バリア工事を実施した場合重複可 最高80万円 措法41の19の3
特定増改築等住宅借入金等特別控除(注) 特定借入金×2%+その他借入金×1% 【5年控除 年最高12.5万円】 措法41の3の2
耐震改修 住宅借入金等特別控除 年末残高(4000万円限度)×1% 【10年控除 最高400万円】 措法41① 併用可 住宅耐震改修特別控除(注) 標準的な工事費用又は改修工事費用×10% 【1年のみ控除 25万円限度】 措法41の19の2
(注)省エネ改修工事や耐震改修工事と併せ行う、一定の耐久性向上改修工事も平成29年4月から対象となりました。
※1 控除額等は、建物等に含まれる消費税率が8%である場合の金額です。
※2 多世帯同居改修工事については、平成28年4月~33年12月までに居住した場合

⑷ 父所有の建物に子が増改築をした場合
 父の所有する家屋に子が増改築をする場合のように、自身が所有していない建物に増改築しても住宅借入金等特別控除の対象となる『増改築』には該当しない(措法41①⑬)。

⑸ 繰上返済し償還期間が10年未満となった場合
 借入金の償還期間が当初10年以上になっていても、その後、繰り上げ返済等により10年未満となった場合には、繰上返済等した年から住宅借入金等特別控除は適用不可(措通41-19)。

⑹ 控除合計額計算の調整
 住宅借入金等により居住用家屋を取得した後の年度において、増改築や財産分与により住宅所得等に係る住宅借入金が2以上となった場合、それぞれの借入金について控除額を計算し合計する。
 税額控除額の上限は、適用年において適用される居住年に係る控除額のうち、最も大きい方が上限となる(措法41の2)。

⑺ 居住用財産を譲渡した場合の特別控除等の特例と住宅借入金等特別控除との選択について
 居住用財産を譲渡した場合の特例〔居住用財産の譲渡所得の特別控除(措法35②)、特定の居住用財産の買換えの特例(措法36の2)等〕と住宅借入金等特別控除の適用関係は次のとおり。
① 譲渡が先行した場合
 住宅を取得等し居住用に供した年分、その前年分、前々年分について居住用財産の譲渡の特例を適用した場合には、住宅借入金等特別控除の適用はできない(措法41⑮)。
② 居住用家屋の取得が先行した場合
 居住年の翌年又は翌々年に入居した家屋以外の物件を譲渡した際、居住用財産の譲渡の特例を適用する場合には、居住年以後住宅借入金等特別控除の適用はない(措法41⑯)。この場合先行して住宅借入金等特別控除を受けていたときには、修正申告書または期限後申告書を提出し住宅借入金等特別控除相当額の納税をしなくてはならない(措法41の3①)。
 先行して居住用財産を取得した場合(②のケース)は、合法的に選択替えができますが、譲渡が先になった場合(①のケース)には、選択替えはできないので譲渡するときにどちらの特例を適用するのか決めなくてはならない。
 なお、住宅借入金等特別控除の適用を受けている居住用財産を譲渡し、譲渡の特例を適用した場合には、前年、前々年の住宅借入金等特別控除について修正する必要はない。

⑻ 住宅耐震改修特別控除(措法41の19の2)について
 住宅耐震改修特別控除は、(特定増改築等)住宅借入金等特別控除(措法41⑬、41の3の2②)のように家屋の所有者以外の者が耐震改修を行った場合でも適用を受けることができる。
 また、自己の所有している居住の用に供している家屋について増改築等を行うとともに耐震改修したときは、住宅耐震改修特別控除、住宅借入金等特別控除のそれぞれの要件に該当すれば、重複して適用することができる(措法41①⑥、41の19の2①)。

9 所得控除関係

⑴ 「障害者控除対象者認定書」に基づき障害者控除の適用等について
 介護保険法により「要介護認定」を受けていたが、市に対し「障害者控除対象者認定書」の交付を要求、これを受け市長が、認定日を過去に遡及して「障害者控除対象者認定書」を交付した場合、遡及した年分に遡り障害者控除の適用を受けることができる。

⑵ 扶養控除の所属の変更
 同一生計内に二人の所得者がいる場合において、その二人に共通の扶養親族をいずれの所得者の扶養親族とするかは、確定申告書等に記載されたところによるが、一度申告書等により所属が定められた後においても所属を変更できることになっている(所令219①)。
 この場合、扶養親族を増加させようとする者と減少させようとする者全員が所属の異なる申告書等を提出しなければならない。この場合の申告書等には「修正申告書」と「更正の請求書」は含まれないので、いったん確定申告書を提出し所属を定めた場合には、扶養親族の所属の変更はできない(所基通85-2)。

○ 変更が認められるケース
 夫は子を扶養親族とする「扶養控除申告書」を提出、年末調整を行った。妻は扶養親族を記載せずに「扶養控除申告書」を提出し年末調整を行った。夫は今年多額の医療費を支払ったため、子を扶養親族から外し確定申告書を提出、妻は子を扶養親族とする「確定申告書」を提出する。

○ 変更が不可なケース
 夫は子を扶養親族とする「扶養控除申告書」を提出し年末調整を行った。妻は扶養親族を記載せずに「確定申告書」を提出した。夫は今年多額の医療費を支払ったため、子を扶養親族から外し確定申告書を提出しても、妻は子を扶養親族とする「更正の請求書」を提出することはできない。

⑶ 複数年分の国民年金を一括で支払った場合の社会保険料控除
 ア 2年分の国民年金保険料を前納した場合
 支払った国民年金保険料全額を社会保険料控除の対象にすることも、各年分に対応する保険料を年分ごとに控除することもできる。

 イ 子供の過去の国民年金保険料を複数年分一括して支払った場合
 複数年分の国民年金保険料をまとめて支払ったとしても、支払った年分の社会保険料控除の対象とする。

10 保険契約に関する支払調書の見直し

⑴ 次のような課税漏れに対応するため、支払調書の提出義務や記載事項を変更した(平成30年1月1日以降に変更の効力を生じる場合について適用)。
 ア 契約者(保険料負担者)と被保険者が同一人でないケースで契約者が死亡し、契約者名義を変更した場合、その時点での解約返戻金相当額が相続財産として相続税の課税対象となるが、保険金が支払われたわけでないため支払調書が提出されず課税漏れがあった。

 イ 契約書名義を変更した後、死亡保険金・満期保険金・解約返戻金を受け取った場合、変更前の契約者が支払った保険料に対応する受取人は贈与税の対象となるが、支払調書は支払時点での契約内容で作成されるため、契約途中で名義変更した分について課税漏れがあった。

⑵ 支払調書の変更内容
 ア 生命保険契約や損害保険契約の契約者が死亡したことに伴い、契約者の変更手続きを行った場合、次の事項を記載した支払調書『保険契約者の異動に関する調書』を提出する。
○ 変更前・変更後の契約者の氏名
○ 契約者が死亡した日
○ 変更に係る契約の解約返戻金相当額
○ 保険料の総額、変更前の契約者が払い込んだ保険料額

イ 契約の締結後に契約者の変更があった場合、支払調書の記載事項の追加
○ 契約の変更前契約者の氏名
○ 変更後の契約者が払い込んだ保険料、変更回数

11 附帯税関係(加算税制度の見直し)

⑴ 調査の事前通知以後に、修正申告等を行う場合
 税務調査が開始され、更正の予知をしていない間に修正申告・期限後申告が行われた場合の適用税率が引き上げられました(国通法65・66)。

種類 28年以前 29年以降
過少申告加算税 0% 5%
無申告加算税 5% 10%

⑵ 短期間に繰り返し無申告等があった場合
 税務調査により、無申告加算税や重加算税の賦課された方が、過去5年以内に同じ税目で再び無申告加算税や重加算税が課された場合には、これらの割合が10%加算されます。

 種類 28年以前 29年以降
無申告 無申告加算税 15%(20%) 25%(30%)
 

仮装・隠ぺい

重加算税(過少・不納付) 35% 45%
重加算税(無申告) 40% 50%

※ ⑴⑵いずれも、平成29年1月1日以後法定申告期限が到来するものから適用。

 

 

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